『チーム・バチスタの栄光』60点(100点満点中)
2008年2月9日より全国ロードショー 2008年/日本/1時間58分/配給:東宝
心臓手術中に殺人事件発生?!
現役のお医者さんという強力な武器をひっさげて2005年に登場した作家、海堂尊は、デビュー作の『チーム・バチスタの栄光』から日本ミステリ界を快進撃。はやくも今回、初の映画化に恵まれた。
拡張型心筋症に有効な"バチスタ手術"において、天才的な腕を持つ外科医・桐生恭一(吉川晃司)。彼が率いる医大の専門チームは、"チーム・バチスタの栄光"と称され、通常6割の成功率といわれるこの手術で26連勝の快挙を達成していた。ところがここ数例、彼らは立て続けに失敗してしまう。女医・田口公子(竹内結子)は原因調査にあたるが、突然現れた厚生労働省の高級官僚・白鳥(阿部寛)は、「これは殺人である」などと言い出すのだった。
さて、中村義洋監督というと、前作『アヒルと鴨のコインロッカー』(06年)のヒットが記憶に新しい。伊坂幸太郎の代表作に続き、今回も(広義の)ミステリの映画化を担当することになったわけだ。どちらも平均よりやや上の映像化といって良いが、この人はどうも詰めが甘い部分がある。
両作品に共通するのは、まるで「ボク、伏線ちゃんと張ってましたよ!」とでもいいたげな、野暮ったいひけらかしだ。この説明過多というか、素人くささがなければ良いのにと思う。とはいえ器用だし、なにより作品に独特のムードがあるのは良い。
ところで、原作を読んだ知り合いに「竹内結子主演で映画化されたよ」と話したら、真っ先に「え、何の役やってるの?」と問われた。探偵役(正確にはワトソン役)だといったら、顔中がハテナマークで埋め尽くされていた。無理もない、小説版では、彼女が演じた役は男性なのだから。
浮世離れしたぶっとび官僚と、ちょっと抜けてる美人女医という(体型も性格も)デコボコカップルが、ユーモラスなやりとりで観客を楽しませながら、あれよあれよと真相を暴いていく流れ。本格的な医療考証が行われた迫真の手術シーンも見所だが、コンビが男女になったこともあり、難解さや社会性とは無縁の軽いデートムービーに仕上がった。
半径10cmの中に7人の容疑者がいる! なんて、ずいぶん心躍る設定のミステリだが、こうなってしまうとそういう知的遊戯はもう期待できない。
なにしろ竹内の吸引力は強烈すぎる。怪演すばらしき阿部寛を相手にしても、埋もれるどころか終盤に笑顔ひとつ見せるだけで観客の意識を一気に引き寄せてしまう。そして終わってみれば「(阿部寛ではなく)竹内結子の映画だったね」と感じさせる。白衣はもとより、ソフトボールの生足ユニホームなどコスプレ満載、意図したわけではなかろうが、まるで彼女のアイドル映画だ。
とはいえ、それが本作の映画としての味気なさを補って余りあるのも確か。襟腰の高いドゥエボットーニのシャツから除く細い首筋は、男性客のオアシスと呼ぶにふさわしい。……というか、これくらいの色気がないと、この話の謎解きは淡白すぎていけない。