『L change the WorLd』5点(100点満点中)
L change the World 2008年2月9日(土)丸の内プラゼール他全国ロードショー 2008年/日本/130分/配給:ワーナーブラザース

夜神月の宿敵Lが、地球の危機に立ち向かう!

大場つぐみ&小畑健の人気漫画『DEATH NOTE』は、映画版もひっくるめて社会現象といっていい大ヒットを記録した。そこで、主人公夜神月(やがみらいと)最大のライバルで、人気キャラクターのLを主役に据えたスピンオフ企画が立ち上がった。

※この先には、映画版『DEATH NOTE デスノート』前後編の結末についての記述がありますのでご注意ください

キラとの戦いに、意外な形で結末をつけた探偵L(松山ケンイチ)は、残り23日間の命をワタリ(藤村俊二)が残した未解決事件リストの消化にあてていた。それもあらかた片付けたとき、年端もいかぬ少年(福田響志)が尋ねてくる。少年は、謎のウィルスにより全滅したタイの村の生き残り。そして同じころ、同事件のカギを握る少女(福田麻由子)もまたLの元にやってくる。

デスノート初のスピンオフ映画は、ライト風にいえば「予想通り!」の一本であった。

監督は変わったが、対象年齢は前2作と同じく小中学生まで。映画版デスノートに喜んだ子供たちなら、たぶんそこそこ喜ぶだろう、といったもの。

もともとこの原作はジャンプ漫画だから、それで良いのだろう。とはいえ、なにぶんマンガ版が大人の鑑賞にも堪えうる出来だったため、私のような者も年齢不相応ながら不満を口にしたくなる。そんなわけでオヤジのたわ言を、寛容な読者皆様にのみ、聞いていただくとしよう。

さて、まずわからないのは、主人公Lについて。映画と原作が別物というのはわかっているが、なぜこうも根幹部分を変えてしまうのか。たとえば原作のLは、全国大会レベルの腕を持つ夜神月とテニス対決で互角に戦い、サンボか何かの(訂正:カポエイラ)格闘技もお手の物、という文武両道キャラであった。同等の能力を持つライトとの天才対決という構図を成立させるための、これは必然といえる。

ところがこの映画版3作目では"体を動かすのが大の苦手"という、まるで引きこもりニートのごとき設定になっている。また、猫背や甘いもの好きという、お遊び程度に触れておけばいいような設定を、やたらと使いまわし、とにかくくどい。Lに対する人物描写について、まるでそれしか思いつかないのかと思うほどで、素人が見ても「ああ、これはあまりデスノを読んでいない人が作った映画だな」と感じるはず。

物語もまた、何ともいえぬ軽薄さ。途中からFBI捜査官役でナンチャン(南原清隆)が出てくるが、その役目はお笑い担当。デスノートの世界でコントをはじめるのだからたまらない。彼が出てきたとたん、マジメな観客は逆に劇場を出たくなる。

ストーリー運びもじつにいいかげん。日本で唯一、問題を解決できる博士のもとに、命がけで重要物を届けたLおよび少年少女の3人に対し、その博士ときたら褒めるどころかいきなり怒鳴りつける。おまけに、自分にはトラウマがあるから協力できないだのと、腑抜けたことを抜かし始める。んな事いったって、お前が断ったら話が進まないんだから、どうせ最後には引き受けるに決まっている。グダグダ言わないでさっさとやれと、観客の苛立ちはピークに達する。

この一連のぐずぐずコントは、私がこの映画のプロデューサーなら100%カットする。まったくもって何の意味もない、ウンコのようなシークエンスだ。

映画ファンの立場から言えば、中田秀夫監督らしさが出ていない、いや出しにくい素材だったという点にも不満が残る。この人は本来、たいへんな実力を持つ邦画界の宝である。彼に任せるのなら、いっそ完全に、得意のホラーにしてしまえば良かったじゃないかと、乱暴な意見をいいたくもなる。

地球環境を保護するために人間を大虐殺して減らすとか、そんなシー・シェパード以上にマヌケな悪役がでてくる、ようちえんのかみしばいのような映画を監督させるのはあまりにもったいない。

とはいえ、いくつかはおやっと言わせる要素もあるのは事実。結末の締め方や松山ケンイチの演技その他、ほんのちょっぴりだが。私よりずっと優しい人なら、それだけで満足できるだろう。これを読むあなたが、そのわずかな人々の中に入ることを、心より祈るのみだ。



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