『歓喜の歌』70点(100点満点中)
2008年2月2日(土)シネカノン有楽町1丁目、渋谷アミューズCQN、新宿ガーデンシネマほか全国一斉ロードショー♪♪ 2008年/日本/112分/配給:シネカノン
笑って笑って、最後は第九の大合唱に涙
シネカノンという映画会社はよほど歌が好きなのか、あるいはヒットの方程式を確立したのか、もうながいこと「音楽&人情ドラマ」の娯楽映画に関わっている。『のど自慢』(1999年)や『ゲロッパ!』(2003)、そして『フラガール』(2006)といった具合だ。
そしてその集大成的作品がこの『歓喜の歌』。下手すりゃドイツ以上によく歌われているのではないかと思われる、ベートーベンの第九(交響曲第9番)。あの年末恒例の合唱曲=第4楽章を題材にした、涙と笑いのコメディドラマだ。
12月30日、とある市民ホールで大事件が勃発した。やる気の無い担当者・飯塚主任(小林薫)のミスにより、2つのママさんコーラスを大晦日の夜にダブルブッキングしてしまったのだ。典型的な小役人体質で、これまでトラブルから逃げ続けてきた飯塚だったが、今回ばかりは一歩も譲らぬ両者の間で右往左往するハメになる。
立川志の輔の新作落語を映画化した本作は、肝心の笑いがきちんと笑えるおかげで(ココ重要)、とてつもなく地味なストーリーながら2時間を退屈せず見ていられる。シナリオを書いた真辺克彦は、竹内結子の最高傑作「サイドカーに犬」(07年)の脚本家。さすがに良いセンスをしている。ちなみにここでいう新作落語とは、伝統的な古典落語に対して使う用語。
この映画のもっとも優れている点は、キャラクターがしっかり確立されていること。いかにも公共施設にいそうな(実際いるかはともかく)事なかれ主義の主人公は、まったく悲壮感なしに、無責任男なりに責任を感じて奔走する。どう見てもダメ人間なのに、なんだか応援したくなってくるから面白い。
セレブ奥様たちを率いる、ベテランコーラスグループのリーダーも貫禄たっぷりでかっこいい。もう一方の、パートのおばちゃんや商店街の人々で結成された、庶民的な同好会風のグループにも、私たちのすぐそばにいるあんな人やこんな人がたくさん見受けられる。こういう日常風景を上手に取り込んだドラマは、人々の強い支持を得ること間違いない。
このように、『歓喜の歌』はどこからどう見てもフツーの映画だが、そういうベーシックな日本製の娯楽映画を見る機会の、いかに少ないことか。私はこの作品の普通さを、全面的に肯定する。
さて、結局二つのグループはどうなるのか。まあ当然のこと、共同開催するか、ってな話になるわけだが、ここから先、クライマックスに向け、映画は一気に感動的な物語へと変貌を遂げる。庶民派のリーダー安田成美が、指揮をしながら見せる表情の幸せそうなこと。
オススメ年齢層はおよそ40歳以上の人々だが、若者向けばかりの昨今、その点も高く評価したいポイントだ。見た後にはなんというか、まあ、人生何とかなるわ、ってな気分になれる。植木等の若いころの映画のような、ノーテンキさに溢れた世界観が、妙にこちらを元気にさせる。歌のシーンはもっとダイナミックに撮ってほしいと思うものの、全体的には十分満足できるレベルの一品だ。
ただ一点、どうして年末に公開しないかなぁ、って一点を除けば。