『リアル鬼ごっこ』70点(100点満点中)
2008年2月2日、テアトル新宿他にて全国ロードショー! 2007年日本/98分/配給:ファントム・フィルム

全国の佐藤さんは、捕まったら殺されます

私はこの映画を見た後に、山田悠介の原作小説を読んだ。だれかが「すごい本だよ」と言っていたが、確かにそうだった。ここ数年読んだエンタテイメント小説の中で、一番驚かされたといっても過言ではない。

"佐藤"姓をもつ人たちが、各地で変死する事件が相次ぐ現代の日本。足がめっぽう速い高校生、佐藤翼(石田卓也)は、今日も佐藤洋(大東俊介)率いる不良グループから追い回されていた。やがてついに囲まれたところで、彼はどこかへ瞬間移動してしまう。そこはもとの日本とそっくりだが、どこかが違う世界。言葉も感情も持たない病気の妹(谷村美月)はなぜか雄弁で、翼を追いかけていた洋は気のいいヤツに変わっていた。だが一番の違いは、この世界の"佐藤"さんは、黒装束の殺人者たちに追いかけ殺される、「リアル鬼ごっこ」の真っ最中だったということだ。

私がなぜ原作小説に驚いたかといえば、それがケータイ小説以上に無茶苦茶な文章で書かれていたから。主語と述語がつながっていなかったり、意味不明な修飾語があったりと、とにかくびっくり。校正するはずの編集者は、よほどのイタズラ好きか眠っていたかのどちらかだ。ちょっと調べたところによると、この問題はずいぶん前からネット等で話題だったらしい。実例が並べてあってとても笑える。興味のある方は検索のほどを。

さて、映画版はこの原作から設定変更した部分に、かなりのツメの甘さが見られる。ちなみに最大の変更点は"「リアル鬼ごっこ」の舞台を未来の日本から、架空のパラレルワールドに移した"こと。

たぶん原作があまりに矛盾だらけなのでそうせざるを得なかったのだろうと思うが、これ自体はとても良かった。ただ、もう少し整合性やリアリティに気を配ってほしかった。

とくに、このパラレルワールドに関する物語上のルールがあまりにもいいかげん。「どちらかの世界で人が死ぬと、もう片方の世界で対応する同人物も死ぬ」という約束ごとがあるのだが、だからといってそこから「片方を助ければもう片方の人物も助かる」というルールを引き出すのはおかしい。人は外傷によってのみ死ぬわけではないのだから、このルールは成り立たない。ネタバレにつながるのでこれ以上は言わないが、見れば私の言ってる意味がわかる。

それにしても、文章はともかく話の発想はじつに面白い。ある独裁者が、佐藤という苗字が多いから減らすために殺人オニごっこを開催。乗り物類の使用は厳禁。一日のうち、鬼ごっこが行われる時間は決まっており、時報と同時にその日は終了。生き延びた佐藤さんは普通の暮らしに戻れる。決められた日数逃げ切れば、何でも願いはかなえられるが、全国の佐藤さんの数は日々減っていく一方、追手の数は同じなので、一人当たりのプレッシャーは加速度的に高まる。

ここで家族を守るため、ひたすら走って逃げる快足自慢の主人公。いやはや、「バトルロワイヤル」や「デスノート」のゲーム性、残酷性とどこか共通する、いかにも若い人が夢中になりそうな世界観だ。

主演の石田卓也も妹役の谷村美月も元気いっぱい、必死に走る走る。若い彼らの全力疾走とリアルスタントは、ちょっとだけジャッキーチェン映画を見ているよう。普通の住宅街で、人間が真っ二つに切り裂かれるCGを駆使した残酷シーンも、強烈な衝撃を与えてくれる。人気漫画「GANTZ」が実写化されたら、きっとこんな感じになるだろう。

興味のある方はぜひこの、ありえないマンガ的設定を受け入れ、大いにフィクションの世界を楽しんでほしい。なかなかどうして、結構面白いですぞ。



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