『子猫の涙』50点(100点満点中)
2008年1月26日(土)より新宿ガーデンシネマほか全国ロードショー 2007/日本/カラー/97分/配給:トルネード・フィルム

五輪メダリストの波乱万丈な一生

『子猫の涙』は、メキシコオリンピックで銅メダルを獲得したボクサー、森岡栄治の一生を描く伝記映画。特筆すべきはこれを監督したのが、実の甥である森岡利行という点。

五輪でメダル獲得の快挙を果たした栄治(武田真治)は、しかしプロ転向数戦目で網膜はく離の重傷を追い、早々に引退に追い込まれる。その後はろくに働きもせず、妻には逃げられ、愛人(広末涼子)を家にひっぱりこんで幼い姉弟の面倒を見させる始末。そんな父の姿を娘の治子(藤本七海)は冷めた目で眺めている。ボクサーとしての栄光の時代を見ていない治子にとって栄治は、ただのダメ父でしかないのだった。

伝記映画には大きく分けて二種類ある。ある人物の人生じたいを描くことに重点をおくもの。人生を描くことで、何がしかのメッセージを伝えようとするもの。どの伝記モノもこの二つの要素を、好みの比率でブレンドして作られているといって良いが、本作は比較的前者の濃度が濃い。森岡栄治の波乱万丈な人生から、各自で何か感じ取ってくれ、という風に読み取れる。

メダル後、不運にも怪我で選手生命を断ち切られた森岡栄治が、そのままロクデナシの道へ転落していく姿は、はたから見れば気の毒といえなくもない。だが本作は、終始小さな娘の視点と語りによって進行するので、彼の行動の裏に潜む「大人の葛藤」にはほとんど触れられない。

しかし、劇中の治子が成長するとともに、そんな父の姿が違って見えてくる。その心情の変化を観客にも疑似体験させるべく、監督も色々と工夫している。

ただ私としては、そこにはまだ演出の余地があると判断する。親族ゆえ、あまり手を加えて嘘っぽくすることは心情的にできないのだと思うが、もっとメリハリをつけることはできたと思う。エピソードのいくつかは過激なわりに、驚きや意外性が感じられずもったいない。

昭和の風景の再現は、これ見よがしのいやみさがなく、まったく違和感なく見られる。優秀な美術の仕事ということができるだろう。ボクシングが趣味という武田真治はじめ、役者陣も安定している。

タイトルの"子猫"は、主人公一家が拾って飼うことになるペットのエピソードから。相当な無茶もしたが、心の底にはいつも純朴なやさしさをもっていた森岡栄治の性格を表す感動的な一幕だ。

子猫の涙~ひとりのボクサーと娘の物語 (竹書房文庫―TA-KE SHOBO ENTERTAINMENT BOOKS (DR-205))
この感動実話を活字で味わいたい人に。


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