『バイオソルジャー』65点(100点満点中)
Paragraph 78 2008年1月26日(土)より池袋テアトルダイヤにてレイトロードショー 2007年/ロシア/130分/配給:クロックワークス

ロシアで進化するガン=カタ・アクション

いま、ロシアは原油高騰による好景気に沸いており、壊滅寸前に追い込まれていた国内映画産業も活気を取り戻しつつある。この国では、アメリカ製アクションエンタテイメントが大人気であり、若者向け作品はおのずとその強い影響を受けている。ロシア製・特殊部隊アクションである本作が、ハリウッドのような娯楽一辺倒のつくりになっているのもまた、当然のことといえる。

軍縮が現実のものとなっている近未来。大雪に覆われたロシアの実験施設からの連絡が途絶えた。この地下にひそかに弾道ミサイルを配備していた軍当局は、機密保持と原因解明のためグッドウィン隊長(ユーリ・クッシェンコ)率いる特殊部隊を送り込む。そこで彼らは研究員の死体を次々と発見するが、同時に致死性のウィルスに感染してしまう。

レイトショー公開のロシア映画ということでか、チラシのあらすじ紹介がまったく本編の内容と異なっていたのには苦笑した。資料には、映画バイオハザードのように生物兵器と化した研究員と特殊部隊が戦うなどと書いてあるが、そんな話は出てこない。

ではどんな内容かというと、ウィルスに感染して絶望した特殊部隊員たちが、くじで2人ずつ選び、互いを殺しあう展開であった。じわじわと心身を蝕まれ、仲間に食い殺されるよりは、理性あるうちに最後の一人になるまで銃や格闘技で殺しあおうというわけだ。

ウォッカの飲みすぎでトチ狂ったヤツが書いたとしか思えない設定だが、これが意外と面白い。つまりは、戦士たちの壮絶な自害物語、という事だ。

キャラクターは立っている。優秀な女兵士とその夫、もと彼の三角関係。悪態や毒舌ジョークばかり吐き続けるブラジル男。友情以上の絆で結ばれるマッチョ兵士等々、見た目も中身も個性が強い。彼らが、鍛えぬいた体と技をぶつけあい、時にはわざと止めをささせたりする人間味あふれるファイトは、じつに見ごたえがある。

ハリウッドやCM界で活躍するスタッフが集結して作っただけあり、ワイヤーワークやVFXを効果的に使ったけれんみある映像が楽しい。的確にコーディネートされたスタント、とくに『リベリオン』(02年/米)で登場したガンカタ(銃弾の軌跡を予想してよける近接戦闘)による格闘シーンは大きな見所だ。

漂う重厚感は、10億円足らずで作られた映画とは思えぬほど。狭い施設へのエントリーにはまず持っていかない重火器なんかもフツーに登場し、軍事ものが好きな男性をわくわくさせるサービスもある。

ガン=カタ好きな人や、特殊部隊のコマンドサンボを堪能したい方、新しいロシア映画の方向性を見てみたい方などは、ぜひ映画館にどうぞ。後悔することはないと思う。



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