『魁!!男塾』20点(100点満点中)
2008年1月26日、シネマスクエアとうきゅう、シアターN渋谷ほか全国ロードショー 2007年/日本/1時間50分/配給:ゼアリズエンタプライズ

「わしが男塾塾長 江田島平八であーる!」

インターネット上では、よく話のネタにされる少年漫画がある。「北斗の拳」や「ジョジョの奇妙な冒険」、「賭博黙示録カイジ」や「グラップラー刃牙」などいくつもあるが、そうしたAグループに、宮下あきらの伝説的漫画『魁!!男塾』も間違いなく入るだろう。どれもこれも語るにふさわしい要素を持つ作品だが、いろいろな意味で一番"濃い"のは男塾に違いない。

真の男を育てる私塾、男塾。塾長の江田島平八(麿赤兒(まろあかじ))率いるこの塾は、古来から日本のリーダーとなる人材を輩出してきた。今年も剣の達人・桃太郎(坂口拓)や根性の男・富樫(照英)、野生児・虎丸(山田親太郎)に加え、ヤクザ組長の息子ながら軟弱な秀麻呂(尾上寛之)らが入塾。先輩たちによる想像を絶するシゴキに耐えていた。ところがある日、男塾乗っ取りをたくらむ関東豪学連の襲撃により、彼ら一号生が男塾名物、驚邏大三凶殺(きょうらだいさんきょうさつ)により彼らと対戦、決着をつけることに。

初監督と脚本も兼任する坂口拓は、マジ当て格闘スタントで知られるアクション俳優。かねてより、男塾の大ファンだという。その熱意は、演じる主人公・剣桃太郎の徹底した役作りや本気のアクションから伝わってくる。フィルムの早回しかとおもうほど回転が早いパンチの連打や、顔にきっちりあてるハイキックその他、やってる事はたしかに凄い。

ただ、男塾の実写化を作るには、彼は生真面目すぎる。リアルアクションにこだわるそのプロ意識は、スタントマンとしては最高のものだが、この素材を調理するのに必要なのはもっと肩の力を抜いた"ユーモア"なのだ。

『魁!!男塾』は、決して"戦いがカッコイイ!" から人気があるのではなく、どうみてもありえない行動その他を、異様に濃い絵柄とセリフで押し通してしまう、ちょっとイタ寒い世界観こそが愛されているのだ。ここを再現しきれていない以上、高得点はあげられない。

それでも、民明書房からの引用解説を千葉繁(アニメ版でも活躍した、男塾世代にはおなじみの声優)のナレーションで聞かせるあたり、ファンならきっと気に入るであろう。私は原作を、週刊少年ジャンプの連載初回からリアルタイムで読んだ世代だが、同世代と思しき男性も、試写室で大笑いしていた。ちなみにこうした内輪ネタで笑っていたのは、彼と私二人きりであった。

これでわかるとおり、フツーの人にとってこの作品はただの変なアクションものであり、まったくもって見る必要性は皆無。

キャストはおおむね良い感じで、とくに照英の富樫はあまりにピッタリで笑えた。坂口拓の桃太郎も悪くない。

彼がこだわった、盟友・榊英雄とのアクションシーン(あるいはその他も)については、見せ方がまるでなっていないため、迫力はほとんど無いに等しい。何をするかではなく、どう見せるかが映画では大事なのだと、今後も監督をやるのならば早く気づいてほしいと思う。

映画の完成度はまだまだ低いが、それでも魁!!男塾ファンは気になって仕方が無いだろう。ダメとはわかっていても、話のネタにどうしても見てみたいアナタの気持ち、私も良くわかる。



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