『28週後...』75点(100点満点中)
28 WEEKS LATER 2008年1月19日、お台場シネマメディアージュほか全国ロードショー 2007年/イギリス/スペイン/104分/配給:20世紀フォックス映画

おばかさん、ピンポン感染で世界を滅ぼす

オリジナル脚本による終末ホラー「28日後...」(02年)は、ヨーロッパ(イギリス)の監督らしくシニカルなテーマ性と、万人向けな娯楽性を併せ持った佳作であった。

なんといっても、感染すると正気を失い周りを襲いまくるゾンビ菌の恐怖、というアイデアがわかりやすい。それを最初に野に放つのが、動物愛護団体ってなあたりもブラックでよろしい(感染した実験動物を、その危険を指摘されながらも身勝手に逃がしてしまう)。

『28週後...』はその続編で、最初の感染からたった28日でグレートブリテン島が壊滅状態になった英国の、28週後の様子を描く。

RAGE(レイジ)ウィルス感染から28週後、英国は復興に向かっていた。感染者たちは食糧不足ですでに死滅。治安維持にあたる米軍の庇護の下、大陸に疎開していた国民は安全区に戻っていった。数少ない本島の生存者ドン(ロバート・カーライル)も、スペイン旅行中だった娘らと再会した。しかし、ドンが見捨てたため死んだと思われていた母親の生存がわかり、家族の間に微妙な亀裂が走りはじめる。

英国壊滅という、予算以上のスケール感を感じさせるハリウッド娯楽的な面白さと、欧州映画らしい皮肉の効いたテーマ性は健在であった(今回はカラーを変えるため、前作のダニー・ボイル監督らは製作に周り、スペインのフアン・カルロス・フレスナディージョ監督を起用)。バカ若者が裸で殺人鬼から逃げ回る、単細胞ホラーに飽き飽きしていた人も、これなら満足できる。

なにが面白いかってこの映画、ゾンビホラーの体裁をとりながら、何処からどう見てもイラク戦争後の世界の縮図を描いている点が良い。ゾンビ菌に冒された人間どもから逃げ回る、純粋無垢な子供たち(とそれを守る正義のヒーロー軍人)というパターンは、アメリカのアクション映画の雛形そのものであり、それ自体、存分にワクワク感を味わえる。

しかし、その後待ち受けるどこかおかしな展開は、これが明らかにアンチハリウッドな話であることを証明する。もっと簡単に言ってしまえば、アメリカを徹底的におちょくっている。

だいたい、ゾンビはせいぜい隣の人にかみつくだけなのに、正義のアメリカ軍は彼らを機関銃で大殺戮するのだ(誤射多数含む)。か弱きゾンビたちは仕方がないから、どんどん仲間を増やして抵抗する。やがて地上最強の軍隊も押され始める。

正義と信じてやったことがすべて裏目。まさに対テロ戦争そのものだ。これをブラックジョークといわずなんというか。

手持ちカメラによるドキュメンタリー風の映像も、本格ムードを漂わせる。途中、ちょいと嘘っぽい描写や展開があり一瞬冷めるが、なんとか許せる範囲。

なんにせよ、前作に勝るとも劣らない傑作の誕生。『28日後...』を見た後に、大いに期待して出かけてほしい。



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