『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』50点(100点満点中)
Sweeney Todd
2008年1月19日(土)、全国ロードショー 2007年アメリカ映画/117分/配給:ワーナー・ブラザース映画/ドリームワークス・ピクチャーズ
殺人鬼ジョニー・デップが意外な歌声を披露
都市伝説とは、いつの時代も人々の関心を引いてやまないが、さすがに150年間にも渡り、語り継がれるものは珍しい。
無差別殺人を繰り返す理髪師と、その死体をミートパイにして繁盛する食堂の物語「理髪師とパイ屋の話」はまさにそれ。ちなみにミュージカル版は、トニー賞8部門を受賞した。今回は、長年この題材の映画化を願っていたティム・バートン監督(「チャーリーとチョコレート工場」(06年))による実写映画化。
19世紀のロンドン。悪徳判事の策略で無実のまま流刑にされた理髪師のベンジャミン(ジョニー・デップ)が戻ってきた。彼がいぬ間に、判事に無理やり言い寄られた妻は自殺、愛娘も幽閉されていた。絶望したベンジャミンはスウィーニー・トッドと名を変え、客の喉を掻っ切る復讐の鬼と化した。幸い死体は、物資不足で肉を欲していた大家でパイ屋の女主人(ヘレナ・ボナム=カーター)が、無駄なく処理してくれた。美味しい彼女のミートパイは、やがて町中の評判になる。
ジョニー・デップとティム・バートン監督のコンビも、いいかげんマンネリだ。手を変え品を変えてはいるが、シザー・ハンズの昔からやってる事はまったく一緒。チョコレートが血だまりになっただけだ。このコンビに傑作が多いことは紛れもない事実だが、いいかげん、商売くささが鼻についてきたぞと警告したい。
はぐれ者を常に擁護するティム・バートンの信念からすれば、この題材(理髪師とパイ屋の話)は確かに願ってやまないタイプの物語だろう。だが、あまりに有名な原作だけに、人物造形に手抜き・甘えはなかったか。はっきり言って、スゥーニートッドの物語を知らない人がこれを見たら、なぜ彼が無差別殺人者になるのか、さっぱりわかるまい。劇中のジョニー・デップの性格とその残虐な行動の間には、どうしても超えられない壁がある。
つまり、監督がこれまで作り上げてきた「愛すべき変人・異質なもの・異形のもの」といったキャラクターと、このスウィーニー・トッドがどうしてもイコールで結ばれない。いつもながらデップが変なメークをしているだけで、これではただの不運な男。ファンは、そういう男のドラマを見たいわけではないだろう。
とはいえ、そうした不具合を隠すように、うまくパッケージングする技術はさすが。残酷なはずのカニバリズムは、この監督独特の美術センスによりある種の美すら感じさせるし、ジョニー・デップの演技(ミュージカル映画なので意外な歌声も披露)もしかりだ。
女主人のミートパイとは違い、一流のテクニシャンの手にかかれば、材料が悪くともそこそこに出来上がる。しかし、彼らの実力はこの程度のものではあるまい。