『勇者たちの戦場』75点(100点満点中)
Home of the Brave 2008年1月5日より銀座シネパトス他、全国ロードショー 2006年/アメリカ/105分/配給:日活
イラク帰還兵が、米本土で直面する地獄の日々
アメリカで戦争映画が立て続けにコケている。
それはそうだ、いま作られているのは、テロリストに一定の理解を示したり、自軍の過ちに言及する(反戦ならぬ)"反省映画"ばかり。これから際限ない不景気〜覇権国家転落への道をたどろうという時に、敵様の事情なんぞ気にする余裕が、米国民にあろうはずがない。
この『勇者たちの戦場』もそうした反省映画のひとつで、「イラク戦争からの帰還兵」という、きわめてホットなテーマを扱う戦争ドラマ。そしてここが重要なポイントだが、「アメリカ人が見たがらない戦争映画」というのは、えてして外国人たる我々が見ると面白い。
イラク駐留中のマーシャル軍医(サミュエル・L・ジャクソン)や女性兵士バネッサ(ジェシカ・ビール)たちは、帰国直前、現地の武装ゲリラに襲われる。仲間は次々と撃ち殺され、負傷者も多数、部隊は甚大なダメージを負う。しかし彼らの本当の困難は、祖国アメリカへの帰国後に始まるのだった。
アメリカ人は、わが偉大なる米軍がゴジラやエイリアンや隕石を撃ち落す話が大好きなのだから、彼らが嫌う映画を見れば面白いに決まっている。本作は、「帰還兵差別」の実態を、劇映画ならではのわかりやすさとリアリティで興味深く見せてくれる。話には聞いていたが、この問題は本当にひどい。
ロケ撮影中心の、臨場感ある画面作りは、ドキュメンタリー的な説得力がある。中でも唸らされるエピソードをひとつ紹介。
戦闘で片腕を失い、帰国後は障がい者となってしまう兵士がいる。恋人や家族、子供たちは暖かく迎えてくれるが、誰一人として、何の救いにも癒しにもならない。戦場で地獄をみた帰還兵と、のうのうと平和を享受している民間人との間には、越えられない壁があるのだ。
やがて片腕の兵士は、街で偶然元兵士と知り合う。そして、家族にも打ち明けられなかった苦悩、葛藤を、初対面のその男にぶちまけるのだ。長年連れ添う家族に対して心を閉ざし、面識がなく、同じ戦場にいたという、ただそれだけの男に心を許すのである。この理不尽な心理状態は、しかし説得力がある。映画はこうした帰還兵たちの悲劇を、それぞれ丁寧に描いていく。
人々の絆を切り裂く戦争という名の政策を、しかしやめられぬアメリカ合衆国。世界中に軍隊を派遣して権益を守らねばならない覇権国家としての、これが宿命だ。彼らが戦いをやめれば、ドルの基軸通貨としての特権は失われ、アメリカ経済は崩壊する。そうなれば、米国民にとっては戦争よりはるかに悲惨なことになってしまうのだ。
進むも地獄、引くも地獄。精神と身体を病む帰還兵たちは、覇権国家を支える殉教者だ。
私たち日本人はこういう映画を見て、来るドル崩壊の際にも絶対次の覇権国家を目指さない、との教訓としなくてはなるまい。時代が変わろうとするいま、まさに必見の一本といえる。