『パルス』55点(100点満点中)
Pulse 2007年12月22日、シアターN渋谷にてロードショー 2006年/アメリカ/86分/配給:アートポート

あのショッキング日本ホラーをハリウッドがリメイク

黒沢清監督の「回路」(2000年、日本)という映画がある。世界の終わりを描いたホラームービーの傑作で、異様な雰囲気で観客を盛り上げる手法は、多くの人々をうならせた。とくに、予測できないショックシーンの見せ方などは、はじめて見た人にある種のトラウマを残すほどであった。

この『パルス』はその待望のハリウッドリメイク。幸いオリジナルと大きく異なるため、こちらを先に見ても(個人的には黒沢版を先に見てほしいが)破壊的なネタバレで興味を失うといった事にはなるまい。オリジナルのファンにとっても、いかにもアメリカ映画らしい、VFXを多用したにぎやかな映像をそこそこ楽しめる。

ハッキングが趣味のオタク学生ジョシュが音信普通になった。不安になったガールフレンドのマティ(クリステン・ベル)が訪ねると、部屋は荒れ果て、やつれきったジョシュがいた。目はうつろで会話はまるで成り立たない。そして混乱するマティの前で、彼は信じられない行動に出るのだった。

物語はある学園内からはじまる。コンピュータマニア同士でつるんでいる連中が主役という、オタクだらけのユニークな映画だが、彼らと付き合ってる女の子はスタイル抜群の美人ばかりと、ある意味フィクション丸出し。しかし後半はそのヒロインも別のイケメンと一緒に逃げるという、まさにアメリカンムービーの雛形どおりの流れ。やっぱり顔か。

この妙にこじんまりとしたティーンホラー的なノリが、のちに壮大な終末ものへと転調。この落差から受ける衝撃=魅力はオリジナルを踏襲している。

ちなみに『回路』最大の見所である爆撃機と飛び降りのシーンについては、リメイクでどう変わるのか、皆さんにとっても大きな興味だろうから、あえて詳細は語らない。ただ後者については、この公開版では残念ながらカットされてしまった。聞くところによると、制作当初はちゃんと予定されていたらしい。

『パルス』はアメリカの映画らしく、登場人物と巨大な敵・困難(と呼べるような主体があるわけではないのだが)の対決色を強めた内容となっている。しかし、肝心の敵からの攻撃のルールが不明瞭なため、ちょっとしまりがない。

たとえば、電波(無線)を介して追ってくるという指摘が劇中であるが、実際はメタル線(有線)経由で出てきたりなど矛盾が見られる。とはいえ、その不明瞭なルールを利用した楽しい見せ場もあるので、あまり突っ込むのは気の毒だが。

個人的には、期待せずにみたおかげでまあまあ楽しめた。たぶんオリジナルを見ていない人も、似たような感想になるだろう。では黒沢信者のごとき大ファンたちは……ツッコミまくって盛り上がっていただきたい。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.