『再会の街で』40点(100点満点中)
Reign Over Me
2008年12月22日(土)恵比寿ガーデンシネマほかにて全国順次ロードショー 2007年/アメリカ/2時間4分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
安っぽい感動のために、9.11被害者の気持ちを利用するとは
実際の事件を脚本に取り込んだ劇映画は、その事件の記憶が新しいうちに作ると、たいてい偽善的で薄っぺらいものになる。アメリカ史上最大の衝撃事件、9.11テロ関連となれば、それはさらに如実となる。
マンハッタンで成功した歯科医として、家族と幸せに暮らすアラン(ドン・チードル)は、大学時代のルームメイト、チャーリー(アダム・サンドラー)を街で見かけて声をかける。ところがチャーリーは視線が定まらず、アランの事も覚えていないという。その尋常でない雰囲気に驚いたアランは、その後ちょくちょく彼を気にかけるようにするが……。
久々に再会した親友は、家族を9.11テロで失い、何もかも変わってしまっていた。正反対に、絵に描いたような幸福な暮らしを享受するアランは、何とか彼を救いたいと思う。かつてチャーリーと一心同体で学生時代を過ごしたアランは、自分が彼の運気を奪ってしまったのように感じたのかもしれない。男同士の、感動的な友情ドラマだ。
ただ、チャーリーのトラウマが、9.11に起因するものである必要がほとんどないのは致命的欠点。つまり、彼の妻や子供が命を落とす理由が、たとえ普通の交通事故であったとしても、これとまったく同じストーリーを作ることが出来るのである。ではなぜわざわざ9.11なのかといえば、つまるところそのほうが客が入る=企画が通りやすいという事にほかならない。これでは事件の遺族の気持ちを弄んでいるだけではないか。
法廷シーンにおける、意地悪な相手弁護士 vs. 主人公らをかばう心優しい判事といったステロタイプな設定も、あまりに偽善的すぎて嫌になる。
重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)たる主人公が、都合のよすぎる経過をたどる展開も、客をバカにしている。地の底をなめるような深い悲しみを味わった、本当の事件の被害者とその家族たちの気持ちを、この映画の企画者たちは想像したことがあるのか。多少なりとも彼らを思いやる気持ちがあれば、安易な感動ものを作るために利用するなど、到底出来ないのではないか。
アダム・サンドラーの役作りは素晴らしく、ユーモアあふれる会話のやりとりも面白い。映画としてはじつに良く出来ているのだが、すべては9.11ネタを絡めたために台無しだ。