『魍魎の匣』30点(100点満点中)
2007年/日本/カラー/133分/配給:ショウゲート
京極夏彦ファン以外にはすすめない
タイトルは「もうりょうのはこ」と読む。原作はオカルトとミステリを融合させた京極夏彦の、いわゆる京極堂シリーズの第2作。古書店主であり陰陽師の京極堂こと中禅寺秋彦が、怪しげな難事件を小気味良く解決する人気シリーズで、05年の『姑獲鳥の夏』(うぶめのなつ)に続き、2作目の映画化となる。
美少女連続殺人事件が世間をにぎわせている1952年の東京。私立探偵の榎木津(阿部寛)は、元女優の柚木陽子(黒木瞳)から娘を探してほしいとの依頼を受ける。作家の関口(椎名桔平)と中禅寺敦子(田中麗奈)も別件から事件に関わる。やがてある巨大なハコ型建物が、解決の鍵を握っていると踏んだ彼らは、京極堂(堤真一)と共に乗り込むが……。
原作とはずいぶん構成が変わった。具体的にいうと、各主要キャラクター(榎木津や敦子や関口など)の動きを並行して描き、複雑な事件を浮かび上がらせる手法。その上で大胆に内容をカットしている。イスに使えそうなくらい分厚い原作を、わずか133分にまとめるのだから、監督(脚本も担当)としてこれほど難しい作業はあるまい。
06年に亡くなった実相寺昭雄監督からシリーズを引き継いだ原田眞人監督は、今回京極夏彦を初めて読んだそうだから、逆に必要以上に原作にとらわれず、自分なりに映画にすることができたと思われる。
ただ、それにしてもこの物語はわかりにくい。原田監督はそうとう話をシンプルにしてくれたが、それでも背後の設定およびサブエピソードの詳細が把握しにくい。原作を読まず、映画から見る人はかなりキツいだろう。そのくせミステリとして爽快感があるわけでもないし、先が気になる高揚感もないのだからすすめにくい。
私が一番首をひねるのが、関口巽役の変更。前作の永瀬正敏も決してピッタリというわけではなかったが、それにしても椎名桔平はない。うつ病に悩まされる貧乏作家という設定は、彼の顔からまったくみえてこない。
このキャラクターは、変人揃いの京極堂シリーズの中で、ほぼ唯一読者が感情移入できるワトソン役であるはずなのに、なぜ映画版はこうもエキセントリックな人間にしてしまうのか。理解に苦しむ。
中国ロケによる戦後間もない日本の風景の再現は、期待以上の素晴らしさ。公開中の『ALWAYS 続・三丁目の夕日』のジオラマ的なそれとは違う、当時の住民の息吹を感じられる見事なセットだ。前述したとおりストーリーはちっとも面白くないし、マンガチックな展開だが、この映像の重厚感のおかげでなんとか最後まで見られた。