『カンナさん大成功です!』90点(100点満点中)
200 Pounds Beauty 2007年12月15日、シネカノン有楽町1丁目、渋谷アミューズCQN、新宿バルト9 他 全国ロードショー 2006年/韓国/120分/配給:ワーナー・ブラザース映画
2007年韓国映画のベストワン
いま韓国映画界では、"日流"なんて言葉があるくらい日本の原作ものが大人気だが、彼らが鈴木由美子の少女漫画『カンナさん大成功です!』を映画化すると聞いたときは、思わずお茶を吹いた。
高見盛級のデブで、かつ不細工なカンナさん(キム・アジュン)は、大好きな歌の世界に飛び込んだものの、回ってきた仕事は人気歌手アミ(ソ・ユン)のゴーストシンガー。歌の下手なアミの代わりにレコーディングしたり、コンサートでは口パクに合わせて舞台裏で歌うのだ。そんなカンナはイケメンプロデューサー、サンジュン(チュ・ジンモ)に片思い中だったが、ある日彼が、自分の容姿に対して心無い言葉を吐いているのを思いがけず聞いてしまい、ついに自殺を決意する。
さて、カンナさんはこの後色々あって自殺を取りやめ、代わりに全身整形で169cm、48kgの超ナイスバディ美女(キム・アジュン、二役)へと変身する。そう、『カンナさん大成功です!』は、「ブスでデブな女の子が、ある日、真逆のスレンダー美人になったらどうなるか」を描く物語である。映画でも原作でも、ヒロインのカンナは正体を隠したまま(整形をカミングアウトせず)、片思いの相手へと接近する。
知ってのとおり、韓国は世界有数の美容整形大国。親が子供の入学祝いに美容外科に連れて行くという国だ。だから、この原作に目をつけたのが韓国映画界だったというのは、ある意味必然というべきかも知れない。しかし、よもや堂々と整形手術をテーマにした映画を作るとは……意表をつかれた思いだ。
そしてさらに驚かされたのがこの映画、鈴木由美子の原作とまったく内容が異なるのである。どこが違うかといえば、ヒロインの名前以外、すべてといって良いほど違う。たとえば原作マンガは最後までオリジナルのブス顔は出てこないが、映画のカンナはのっけから特殊メークのおデブちゃんバージョンで登場する。
しかし、ほとんど書き下ろされたこのストーリー、脚本がじつに素晴らしい。おデブ時のこっぴどい周りの仕打ちや、美人になった途端急に親切になる男たちなど、いかにも"ありそう"なギャグが多数織り込まれ、爆笑の連続。心はブスのままなので、"自信なさげにキョドってる美人"という、変な生き物になっているあたりもまた笑いも誘う。
せっかく片思いの男と仲良くなっても罪悪感を覚えたり、やがて本当の自分を見失いそうになる展開も、簡単そうにみえてまとめるのが難しい要素ばかりだ。しかし本作は、それを完璧に仕上げた。ハッキリいって、映画版の完成度は原作を超えている。こうしたケースは世界的に見てもきわめてまれであり、最上級のものと評価したい。
韓国の映画やドラマは、爆発的に流行った「冬のソナタ」でチェジウが泣いてばかりいたせいで、日本ではいまだメロドラマの印象が強い。しかし、本当に優れているのはこの手のラブコメである。このジャンルに関して韓国人は、邦画はもちろん本場ハリウッドにさえ負けないくらい面白いものを作る。
映画『カンナさん大成功です!』が素晴らしいのは、美容外科手術というものを否定せず、しかし積極的に肯定もしないところだ。それより何より自分というものをしっかり持とうよ、とのまっとうなメッセージは、誰の心にも届く心地よいものだ。
さらに言うと、本作のコンサートシーンは最近の映画の中では白眉。多数のエキストラと豪華なセット、そしてキム・アジュンが実際に歌う劇中歌が良いこともあって、大きな感動を与えてくれる名場面だ。
そのキム・アジュン、本来は吹き替え予定だった歌があまりに上手だったので、そのまま採用したという。彼女には、不細工な女の子の気持ちを知るため、4時間かけた特殊メークのまま街に出かけたという、感心すべきエピソードもある。私には一生必要ない役作りである。
見るとナチュラルな雰囲気の美人で、たしかにとってもかわいい。本作で女優としてブレイクしたばかりだが、そもそも今回のオーディションには「整形してないこと」という絶対条件があったため、トップスターたちが揃って落選したおかげではないかという、私しか言ってない噂もある。
いずれにせよこれは、美容というものに興味のある人すべてにオススメの傑作。07年に見た韓国映画の中で、私はこれを迷わずベストワンに挙げる。前向きで明るく、見ると元気が出る。この冬、絶対見逃せない一本だ。