『マリと子犬の物語』40点(100点満点中)
2007年12月8日(土)全国東宝洋画系ロードショー 2007年/日本/2時間04分/配給:東宝
非アニメで子供が見られる貴重な実写イヌ映画だが
日本の映画業界に君臨する最大手の東宝だが、実際に映画を製作するのはテレビ局等の外部が多く、自身の手によるものはそれほど多くない。そんな彼らが、20年ぶりに自社製作の実写お正月映画として送り出すのが『マリと子犬の物語』。主演は長澤まさみでもなければゴジラでもない、その大役を担うのはただのイヌである。
新潟県山古志村。亮太(広田亮平)と彩(佐々木麻緒)の幼い兄妹は、ある日捨て犬を見つける。優しい祖父(宇津井健)の協力を得て、犬嫌いの父を説得した二人は、子犬にマリと名づけて目いっぱいの愛情を注ぎ、育てはじめる。成長したマリは元気な3匹の子犬を産み、立派な母犬に。ところがそんなのどかな日々を、突然新潟県中越地震が襲う。
この映画は、04年におきた新潟県中越地震のとき、住民が全避難して孤立した村で生き延びた犬マリの実話をベースにしたフィクション。主題歌は、当時被災者たちを励まし続けた平原綾香の『今、風の中で』を採用。さらに、人命救助と復興に大活躍した陸上自衛隊の大型ヘリも登場し、スケール感を高めている。
一応全年齢向けではあるが、大人同士ではちとつらい。劇中の兄妹くらいの子供づれの観客がメインと考えたほうがよい。
さて、私は犬も子供もめっぽう好きだが、正直なところ、この二つを使ってお涙頂戴をしようとする映画は苦手だ。犬が、くーんとなきながら目に涙をためているのを見ると、「うむむ、この演技を引き出すためにどれだけムチを入れたのだろう」などと余計な事を考えてしまう。年端のいかない子役に対しても同様だが、こちらはまだ言葉の通じる人間だから、ぎりぎり許容できなくもない。ようは、犬好きには二種類いる。犬映画が好きなタイプとその逆で、私は後者ということだ。
とくに本作は、それを抜きにしてもドラマ(特に地震発生前まで)がグダグダしているから、鑑賞前には頭の中をなるたけ"素直モード"にしておく必要がある。そんなわけで、可愛いわが子、わが孫と見に行くほうがよい、とすすめる次第だ。期待感にあふれる子らのニコニコ顔をみれば、誰だって素直になれる。
物語はあきれるくらい予測どおりに進むタイプのもので、子供からお年寄りまで何の構えもなしに見にいける。親切ではあるが、私のようなうるさ型には物足りない。
……とはいえ、この手の動物&子供映画は、ときに強力な破壊力を兼ね備えているものだ。この作品の場合で言えば、子供たちが泣く泣くマリと子犬を残して避難する別れの場面(名子役の佐々木麻緒、迫真の泣き演技はダコタ・ファニング級)。そして、村人たちとの感動の再会シーン。この二つは強烈である。うだうだ言ってる私だって、こういう場面を見せられたら平常心ではいられない。いぬかわいい。
じっさい東宝試写室では、いい年をしたお姉ちゃんが、隣でぐずぐず泣きっぱなしであった。この子供映画にそこまで没頭できる感性が、ある意味うらやましい。
そんなわけで、おじいちゃんとお孫さんが出かける実写映画としては、これはまぎれもなく価値ある一本。あとは、涙腺の弱いオトナの女の子にも向いていよう。ただ、単純に犬好きの方、映画好きの方にオススメ、とまではいえないところが、高得点をあげにくい理由である。