『ディセンバー・ボーイズ』55点(100点満点中)
December boys 2007年12月1日(土)、サロンパス ルーブル丸の内他全国ロードショー 2007年/オーストラリア・イギリス・アメリカ/105分/配給:ワーナー・ブラザース映画

ハリー・ポッター童貞喪失

ダニエル・ラドクリフといえば、ご存知ハリー・ポッター役で知られる子役スター(……といっても、もう18歳)。彼が、ハリポタ新作の撮影前に、どうしても出ておきたかったという脚本がこれ。メガネっ子魔法使い以外の役を演じる主演映画としては、もちろん初めてとなる。

ダニエルが演じるのは、孤児院の仲良し4人組の一人。12月生まれという共通点を持つ彼ら"ディセンバー・ボーイズ"は、真夏(12月)のオーストラリアの海辺の集落で、夏休みを過ごすことに。カトリック系の厳しい戒律の元で暮らしていた彼らにとって、これは初めての"バカンス"。この映画は、そうした少年たちの"忘れられない特別な夏"をほろ苦く描いた青春ドラマだ。

この映画は、家族の形態と家族愛という、普遍的なテーマを扱う感動作。しかし、表面的にはかなりケレン味ある設定となっている。

たとえば彼らは、年齢的にもう養子縁組の可能性がほとんどない「行き遅れ組」だ。中でもダニエル君は、残り3人のお兄さん的存在として大人の対応を期待され、また自覚もしているのだが、それでも将来への不安は隠せない。

そんな折、4人はこの集落で、子宝に恵まれず養子を検討している若夫婦と出会う。アメリカンバイクを乗り回すカッコいいお父さんと、トップレスで海岸を歩く、スタイル抜群の優しいお母さん。こんな夫婦に養子にしてもらえたら、それこそ理想だ。この先彼ら以上の「養父母」と出会うことは、おそらくない。それを全員が即座に理解する。

当然、二人に気に入られようと必死になる弟分たち(彼らの媚び具合がまた、なんとも切ない。無邪気さと狡猾さを併せ持つ微妙な年齢なのだ)だが、そこで真っ先に身を引く思いやりを主人公は持っている。……が、やはり本音では家族がほしいと願っているわけで、それは微妙な表情の変化でひしひしと伝わってくる。

思春期の少年らしい、この危ういバランス感覚を、繊細な演技とルックスで、ダニエル・ラドクリフは見事に演じあげたといえよう。

「養子の座争い」以外にも、ダニエル君がお隣の金髪お姉さん(積極性100 H度120)に、色んなコトを教えてもらう展開など、本作が徹底して描く「思春期のオトコノコ目線」のリアルさは特筆に価する。少年たちが、意図せず大人の女性の着替えシーンを見てしまった際の反応など、ある種の愛しさをもってこの監督(ロッド・ハーディ)は表現しようとしている。とても温かみのある作風だ。

サウス・オーストラリアのアデレードとカンガルー島で行われた、ロケ撮影の美しさも大きな見所。複雑な入り江や巨大な岩、美しい海と魚。そして海岸を走る馬。たとえストーリーを忘れても、この素晴らしい景色だけはきっといつまでも心に残るだろう。

これだけの舞台と、欲張りな設定をもっていながら、それでも結果的に薄味となってしまったのはなぜなのか。ダニエル・ラドクリフ以外の3人の男の子の陰が薄いとか、そもそもラドクリフの役はもっと不良ぽいタイプの方が似合うはずだとか、いくつか理由は思い浮かぶ。しかし結局のところは、広げた風呂敷が手に余ってしまったという事ではないのか。傑作になれそうだったのに、最後はうまくまとめ切れなかったと感じてしまう。

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