『ミッドナイト イーグル』55点(100点満点中)
2007年11月23日、丸の内ピカデリー1系ほか全国拡大ロードショー!! 2007年/日本/カラー/131分/配給:松竹

竹内結子と吉田栄作に55点

つまり、それ以外の合計はプラマイ0点ということだ。

戦場カメラマンの西崎(大沢たかお)は、北アルプスに墜落する謎の光を目撃する。反射的にシャッターを押した彼は、後日それが米軍のステルス機と知る。死に別れた妻の妹で週刊誌記者の慶子(竹内結子)にその事実を知らせたあと、彼は盟友の新聞記者、落合(玉木宏)と共に入山、墜落現場を目指す。

高嶋哲夫の原作はよくできたポリティカルサスペンスで、かつ安全保障や戦争の矛盾をきっちり描いた小説であった。この映画版のもっともまずい点は、その「矛盾」という大テーマを正反対に捻じ曲げてしまった点にある。

慎重にネタバレせぬよう書くが、終盤の墜落現場で主人公が商売道具を捨てて手に取るものと、彼の職業・思想の鮮やかな対比こそが、この原作のキモといってよい。人を守る、ひいては国家を守ることの、机上の空論ではない過酷な現実を、娯楽面のクライマックスと並行して表現した名場面である。

ところが映画版の主人公は、あろうことかいつまでも能天気な平和主義者のまま。とんちんかんな平和ボケ思想を、真逆のテーマを持つ物語にぶち込むものだから実にすわりが悪い。誰が思いついたのか知らないが、こうした思想を入れ込んだがために、終盤のもっとも活躍すべきところで、武人たる自衛官は映画上、何にもしなく(できなく)なってしまう。内閣総理大臣との軍事作戦のやりとりも、ど素人の民間人が一人でやっている。とても不自然だ。

というか、こういう場面を不自然とも思わずに作ってしまうその無神経が、私には到底理解できない。この成島出という監督は、よほど軍事および政治に関して無知か、作品のキモを読み違えているかのどちらかだ。まったくもって本作の監督には、ふさわしくなかったというほかはない。

ストーリーテリングもお粗末極まりない。二人が山にはいる確固たる動機を描いていないから、なぜ彼らが命がけでえっちらおっちら雪山を登っているのか、原作未読の観客はさっぱりわからないはずだ。

また、この二人が北朝鮮の特殊部隊や自衛隊の精鋭部隊でさえ、絶対にかなわない"武器"を持っていることもちゃんと伝えないものだから、山岳アクションとしてもまるでスリルがない。この主人公たちは、じつはこの山に関してはわが庭同然の土地勘を持ち、また冬山登山に関してきわめて高いスキルを持っている。だからこそ、彼らが救った自衛官は、命に代えても守らねばならぬ最高機密を二人に打ち明け、協力を頼む気になったのだ。この場面は原作では十分な説得力を持っているが、映画版では自衛官が口の軽いバカにしかみえない。

ただし役者たちはおおむね重厚で、作品に合った良い演技を見せてくれる。とくに竹内結子はいかにも週刊誌の編集部にいそうな女をパーフェクトに演じており、やはり現在最高の若手女優だと私は再認識した。また、自衛官役の吉田栄作も同様。彼は、サゲマンYOSHIKIの歌なんぞを歌っていなければ、今頃もっとその良さが広く認識されていて良い役者なのだ。

唯一、首相役の藤竜也はミスキャストで、その軽さは完全に浮いていた。最後、子供を励ます台詞が感動的でそこだけは素晴らしかったが、もともと重厚な軍事サスペンスに似合う役者ではない。

『ミッドナイト・イーグル』を見ると、日本の軍事ものはまだまだ話にならないレベルだと言うことがわかる。しかし、それでもこのジャンルの灯を消さず、各製作者には果敢に挑んでほしいと強く願う。原作となる小説、漫画の類にはいくらでも傑作が転がっている。あとは映画作りのノウハウの問題なのだから、早く経験を積んで上手になって、私たち観客を満足させてほしい。その日がくるまでは、このジャンルの発展を願う一人として、日本の誰よりも厳しく批判させていただく。



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