『カルラのリスト』60点(100点満点中)
Liste de Carla, La 2007年11月10日、東京都写真美術館、アップリンクXにてロードショー 2006年/スイス・フランス/95分/配給:アップリンク

国連・国際刑事裁判所の活動現場に興味がある人に

国際連合という組織に対し「国家の枠組みを超えて世界平和の実現を目指している」などと幻想を抱いている人たちにとって、このドキュメンタリーはいくらか期待にこたえてくれる。

タイトルのカルラとは、カルラ・デル・ポンテという女性の名前。彼女は旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷(ICTY)という国連組織の検事長として活躍する人物だ。ICTYとは旧ユーゴで起きた戦争犯罪人を裁くために作られた国際刑事裁判所で、彼女は日夜世界中を駆け巡って『カルラのリスト』に載った犯人たちの手がかりを探している。

人道に対する罪、というと近代史に多少詳しい日本人にとっては、あの悪名高い東京裁判での事後法を思い出すが、それを堂々と対象犯罪に入れているこの組織も本質的には変わらない。彼女らが追う犯罪人は、それを匿う当事国の政府や組織にとっては、犯罪者どころか逆に英雄扱い。そんな連中をテロ支援国家と決め付けるのもひとつの正義だが、現実には彼らにもまた別の正義が存在する。

しかしカルラの仕事振りに密着したこの映画を見て思うのは、彼女のように「二つの正義」の間で迷うことなく「自らの正義のみを確信して前に進む」タイプは確実に必要だ、ということ。そうでなければこんなハードな仕事は勤まるまい。なにしろ各国の大統領や首脳とさしで話し、妥協を引き出さねばならないのだから。

しかも彼女の持つ交渉カードはきわめて貧弱だ。たとえば、ある政府がEUに加盟したがっているという事情を利用し、「国連機関であるICTYに協力したという事実があれば、有利にコトが進むわよ」とほのめかすとか、その程度のもの。なんといっても自前の警察力、軍事力がないのだから、ほかにどうしようもない。

そんな中で彼女は、元ユーゴスラビア大統領ソロボダン・ミロシェビッチを逮捕するなど、画期的な成果をあげてきたのだから恐れ入る。冒頭で書いた、国連至上主義者の幻想を満足させるというのは、こうした事実を描いているからだ。

しかし、実際のところそれにも限度はあり、カルラのリストがゼロになる可能性もほとんどない。それはつまり、国際社会の中では、結局のところ腕力がなければ正義を通せないということでもある。カルラのICTYは予算も削られ、国連安保理からさえ解散期限を切られている、いまや孤立無援に近い状況だ。

私はこれを見て、民主主義国もそうでない国もごたまぜで参加する国連という組織の構造的脆弱さを改めて痛感したが、まったく逆に感じる人も多いだろう。国家を超えた正義に感動し、カルラのような仕事を目指すようになる若者もいるかもしれない。

鑑賞に当たっての注意としては、ルワンダやユーゴスラヴィア関連の紛争とその背景(とくに虐殺問題について)、関連する国や組織、民族の名前など(クロアチアやセルビナやコソボ自治区や、ラドヴァン・カラジッチやラトコ・ムラディッチ等々)は予習しておいたほうがいい。

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争って何なの? というレベルだと、間違いなくこの映画は1800円の使いきり睡眠薬として作用する。副作用がないのは嬉しいが、それではちょいともったいない。

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