『超立体映画 ゾンビ3D』45点(100点満点中)
Night of the Living Dead 3D 2007年11月10日(土)より池袋シネマサンシャインほか全国ロードショー 2006/アメリカ/80min/提供:クロックワークス 配給:トルネード・フィルム
ゾンビ映画の名作が立体映画になった……ん?
日本と違ってアメリカでは、立体映画というジャンルが市民権を得ている。家族と、友達と、映画館で大いに盛り上がる習慣が根付いているあちらでは、手軽なエンタテイメントのひとつとして認識されている。本作はゾンビ映画のパイオニア的名作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を3Dでリメイクした正統派ホラーだ。
叔母の葬儀のため墓地を訪れた兄妹は、なぜか人っ子一人いない状況に困惑する。とりあえず教会に向かおうと話し合っていた刹那、彼らは生ける屍に襲われる。すんでのところで逃げ出した妹は、途中でバイクにのった若者に救われ、彼の友人一家の家へと避難する。
オリジナル版に比肩するほどの低予算作品であり、この規模で立体映画を作ること自体、いかにもアメリカ的といえる。ホラー映画史に残るあの傑作を、なぜこんなチンケな形でリメイクしたのかといえば、結局のところオリジナルの著作権が期限切れになっているからに他ならない。なにしろネット上でDVD用の高画質版が誰でもダウンロードできるようになっているくらいなのだから、(確実に巻き起こるロメロファンからの非難さえ恐れなければ)こんな企画を実現させることだって容易だろう。
その、原版の監督ジョージ・A・ロメロは、もちろん本作には関わっていない。冒頭の、兄妹の車が墓地に向かう風景などはオリジナルそっくりで、一瞬おやっと思わせるが、ストーリーまで同じというわけではない。
立体映画の手法としては、赤と青のフィルムをはったメガネをかけて鑑賞するアナグラフ方式。これだと大して立体感を得られぬ上に、色情報を失ってしまうという多大なデメリットがあるが、もともとの作品がモノクロな上、チープ感も魅力のひとつとあって採用したのだろう。もちろん、予算上の問題こそが最大の要因だろうが。
個人的には、効果的に立体視を生かしているとは思えなかったが、ラストシーンでの使い方はまあまあだった。ほかがダメすぎるから、ここだけマシに見えたのだろうと思っている。物語が終わったあとに、静止画のゾンビが徐々に近づいてくるような遊びがあるが、むしろこういう演出を本編に取り込んだらよかったのではないか。
安易なショック演出には頼らず、クラシカルなムードとじわじわと怖くなる雰囲気を大切に作ってある。それならいっそオリジナルを3D化して上映したらいいじゃないかと言いたくなるが、それは禁句である。
正直なところ、寂れた映画館のレイトショーで気楽に見るならいが、昼間の大スクリーンで見たいとは思わない。レトロムード満点の物珍しい立体映画という事以外、本作のウリは何もないのだから。