『ノートに眠った願いごと』40点(100点満点中)
秋へ.../Trace of love 2007年11月3日(祝)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー 2006年/1時間48分/字幕翻訳:根本理恵 配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

三豊百貨店崩壊事故を題材にしたラブストーリー

かつて韓流という言葉がもてはやされた時期があったが、いまや韓国製メロドラマは風前の灯。スター出演の話題作でも人が入らず、枕を並べて討ち死に状態だ。

そうした人々の嗜好の変化に歩を合わせるがごとく、以前は毎月のように送られてきた試写案内も、最近はめっきり減ってしまった。それでも時折入る新作案内に、しかしまったく食指が動かない日々が続いていたが、『ノートに眠った願いごと』だけは違った。なぜ私がこれに興味を持ったかといえば、人類史上に残る人災「三豊デパート崩壊事故」を題材にしていたからだ。

司法研修院生のヒョヌ(ユ・ジテ)は、新居の家具選びのため婚約者のミンジュ(キム・ジス)と待ち合わせをしていた。しかし仕事に追われ、予定の時刻に抜けられなくなった彼は、真夏の炎天下に待たせておくのは悪いと「先にデパートの中にいて」とミンジュに告げる。そして彼がようやく到着した瞬間、その目の前で建物は崩壊した。

さて、ここまではいわば導入部。その後時間は一気に10年後に飛び、ふとしたことからヒョヌはミンジュの遺品のノートを受け取る。そこにはテレビ番組ディレクターだった彼女が仕事上で知りえた、選りすぐりの名所を連ねた「新婚旅行の予定表」がびっしりと書かれていた。やがてヒョヌは、ノートに書かれた場所をたどる事により、失われた人間性を取り戻していく。

95年、営業中の5階建てデパートが突然崩壊して大勢が下敷きになって死ぬという、およそ考えられない事故が実際に韓国で発生した。この映画の中では、婚約者が巻き込まれる大惨事として、CGや瓦礫のセットを駆使して撮影された大迫力のスペクタクルとなっている。とくに内部のパニックを表現したくだりには臨場感があり、遺族や関係者はとても見られないはず。これが単なる客寄せの話題づくりなら問題だが、一応必然性をもって脚本に組み込まれているのでよしとする。

さて、この作品のもうひとつのポイントは、恋人を死なせてしまった自責の念から男が立ち直っていく感動のロードムービーという点。ミンジュは国内観光のセミプロという設定だから、さぞ厳選された観光名所、穴場がスクリーンに登場するだろうと私は期待していた。

ところがヒョヌがたどる「オリジナル新婚旅行コース」の、あまりの魅力のなさに私は驚かされた。3ヶ月間もロケ地選考のみに費やしたという撮影秘話が、信じられないほどであった。

禿山のような山肌の間にちらほらと木々が散在するだけの"紅葉の名所"。砂丘と呼ぶにはあまりにスケールの小さい砂山。これを"あこがれの新婚旅行コース"にせざるをえない韓国観光産業の苦しい事情に、正直萎えてしまった。さらには国道7号線を車で走りながらの「ここは東海(※)が見えるから綺麗なのよ」なんて台詞にまた萎える。字幕をつける人もさぞ悩んだに違いない。心から同情する。(※韓国政府は政治的理由により日本海の事をこう呼び、しかも世界中に広めようとしている)

観光立国を目指す韓国は、こうした映画によって観光産業が盛り上がることを期待しているわけだが、結果としては自国の観光資源の乏しさを改めて露見させてしまう形になった。大韓商工会議所の調べによれば、韓国の観光資源は日本や中国はもとより、東南アジアにも大差をつけられた最下位で、業者は将来を悲観しているというが、やはりそうなのか。韓国から日本に来る人は年々増えているが、その逆はジリ貧というニュースは聞いていたが。

さらに気になったのは、観光地巡りを、若い女性が一人でヒッチハイクで行っている描写。決して貧乏旅行というわけでも、極端な僻地というわけでもないから、単にこれは交通インフラが弱いということなのか。どうにも頭をひねる部分であった。

ドラマは真摯に作られた好感の持てるものであり、安直なお涙頂戴というわけではないから内容にツッコむ点はとくにない。ただ、それが逆に物足りなく感じられたりもする。後半に仕掛けられた謎は、ほぼ人物の登場とともに解けてしまう程度のもので、やはり秘境めぐり?が見所になるはずだっただけに、その弱さは残念だ。

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