『アフター・ウェディング』60点(100点満点中)
After the Wedding / Efter brylluppet 2007年10月27日、シネカノン有楽町にてロードショー 2006年/デンマーク/119分/配給:シネカノン

抜群のストーリーテリング

家族には大きく分けて2種類ある。いわゆる遺伝子上のつながりがある肉親と、血はつながっていないが家族同然の存在。養子の類もこちらに含まれるだろうか。赤ちゃんポストの概念を発明したり、不妊というわけでもない有名人が積極的に養子を迎えるなど、後者を受け入れる土壌が広まっている欧米に比べると、現代日本は比較的血縁を重視する印象だ。婚外子への相続差別など、法律上にもその痕跡が残っている。

また、国や民族の違いに限らず、収入や家柄によっても"血"にこだわる度合いは違ってこよう。『アフター・ウェディング』は、そんな富豪のきまぐれに振り回される、ある中年男の物語だ。

万年貧乏なインドの孤児院で働くデンマーク人のヤコブ(マッツ・ミケルセン)。ある日、彼のもとに本国の実業家から巨額の寄付金の申し出が届く。条件はヤコブ本人との面談。怪訝に思いつつ帰国した彼は、そのまま実業家の娘の結婚式にむりやり出席させられるが、会場には意外な人物が立っていた。

主人公のヤコブは、孤児院でたくさんの子供たちを育て、慕われている。ここは孤独な彼が癒される安住の地であり、孤児たちは家族そのものだ。

しかし一人の金持ちによって、貧しくも穏やかな彼の生活は終わりを遂げる。結婚式でとんでもない人物と顔をあわせたときから、彼は"二つの家族"のどちらかを選ばねばならないという、困難な問いを突きつけられるのだ。

ここまで極端な話ではないにせよ、たとえば子連れで再婚した後に新しい子供が生まれるなど、複雑な状況におかれることは人生ままある。私などは養子も赤ちゃんポストも大賛成の立場であり、そのような環境への適応性はきわめて高いと思うが、この映画に出てくる富豪のような人間にとっては違うだろう。

いずれにせよ、この主人公が遭遇する諸問題は誰にとっても実感を伴うものであり、興味深く見られるはずだ。しかもこの映画、先が気になる観客の前に、憎らしいほどもったいぶって真相を小分けで出してくる。悔しいが、ぐいぐいと引き込まれる。ドッグフードの大袋を一度にぶちまければ安心してのんびり食べる犬でも、小出しにされたらそうはいかない。監督に自分の欲求をコントロールされる快感を味わえる一本といえるだろう。

そのスザンネ・ビア監督は、過去の2作品(『ある愛の風景』『しあわせな孤独』)がハリウッドリメイク中と、将来を期待される一人であり、本作もアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。ストーリーテリングの巧みさを評価されたのだろうと私は思っている。

ただ、劇中の実業家の心境というものに、少々説得力がないようにも思える。私のような違った意見のものにも彼の悩み、あんな事をするににいたった思索の流れを理解させるだけの心理描写が欲しかった。

とはいえ、その後の意外なラストは悪くない。人間とは案外たくましいもので、きっとああいうものだろうと心から思う。



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