『エクスマキナ』60点(100点満点中)
EX MACHINA 2007年10月20日(土)より全国ロードショー 2007年/日本/105分/配給:東映

外見はいい、内面があと少し

遠い未来、クローン技術が普及した社会における仮定の話。顔面を含めた体のほとんどが機械になってしまったオリジナル彼氏と、100%生身のクローンが同時に存在したとしたら、あなたはどちらを選ぶだろうか。『APPLESEED アップルシード』(04年、日)の続編となる本作のヒロインは、そのような三角関係に巻き込まれる。

前作から7年後の西暦2138年、中立都市オリュンポスでは人間、サイボーグ、そしてバイオロイド(クローン)が共存していたが、いまだテロリズムを根絶するにはいたっていなかった。ヒロインのデュナン(声:小林愛)は、最新鋭のサイボーグであり恋人のブリアレオス(声:山寺宏一)と特殊部隊ES.W.A.T.でコンビを組み、治安維持にあたっていた。ところがある日、新パートナーのテレウス(声:岸祐二)の顔をみてデュナンは激しく動揺する。彼は人間だったころのブリアレオスの遺伝子から作られたバイオロイドだったのだ。

デュナンの恋人ブリアレオスは、戦闘中の負傷により人間だったころの面影などまったくない機械的な人工ボディになってしまっている。だが、テレウスは違う。彼の性格、外見は、かつて普通の恋人同士として愛し合ったブリアレオスそのものだ。デュナンにとって、いまでもオリジナルのサイボーグ・ブリアレオスとの心の結びつきは強い。だが、まだ若い女の子である彼女には、肌を寄せ合った時のぬくもりなど、決してそれだけで埋められぬ要素も少なくあるまい。

この三角関係は未来を舞台にしたSF作品ならではの興味深い設定であり、男女の愛のあり方という普遍的なテーマを描くに十分なポテンシャルがあるといえる。だが残念なことに『エクスマキナ』には脚本が弱いという致命的弱点があるために、この素晴らしい素質を生かすことが出来なかった。

このシリーズは、日本アニメにしては珍しく、ストーリー等"中身"より、映像面など"外見"が話題になっている。つまり、実在の俳優によるアクションや演技を、顔面の表情から全身の動きまでコンピュータに取り込み3DCG化。そこにセルアニメ風の着色を行うというユニークな手法"フル3Dライブアニメ"作品というわけだ。この技術によるアニメ映画としては、前作のほかに先日公開された曽利文彦監督『ベクシル 2077 日本鎖国』があるが、『エクスマキナ』はよりセルアニメらしさを残す味付け。

むろん、『APPLESEED アップルシード』からの技術の進歩は一目でわかるほど。各キャラクターのアクションはよりなめらかになり、ヒロインはミニスカートのセクシーなドレス姿まで披露する。同時に画面に登場する人間の数も圧倒的に増えた。そのおかげで舞台となるオリュンポスの都市に奥行きを感じられるようになった。

かように映像面は見ごたえ十分だが、欲を言うならば効果音全般が最新鋭のデジタル作品としては平面的な印象。まだまだこだわる余地はあるように見受けられる。

また、前述したように脚本が弱い。とくに、劇中の国家同士による政治的な展開にはリアリティがまったく感じられない。このあたりが、士郎正宗による原作との比較でもっとも劣る部分といわれるゆえんだ。先が気になる感がまったくないストーリーについては、今後シリーズを重ねる上で最大のネックとなるだろう。このままでは原作ファン以外の人々を引き込めるとは思えない。

ジョン・ウーが製作として色々と助言をしたとされ、白ハト・スロー・二丁拳銃など彼のトレードマークも総登場。音楽には 細野晴臣、テイ・トウワ、小山田圭吾、高橋幸宏、坂本龍一等そうそうたるメンバーが並び、PRADAのデザイナーがデュナンの衣装をデザインするなど話題性にも事欠かない。だが、それでも映画の土台となる部分はまだまだ脆弱だ。なお、声優はヒロイン以外総入れ替えに近いが、意外なことに違和感は感じない。このあたりがプロの職人技か。



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