『ロケットマン!』35点(100点満点中)
Fire Warriors 2007年10月6日、銀座シネパトス他にてロードショー 2006年/タイ/103分/配給:ポニーキャニオン+ヘキサゴンピクチャーズ+リベロ

ムエタイ男がロケットに乗って大活躍

私は本編を見終わった後にこの作品の予告編を見たが、作った人は天才かと思った。作品の面白い要素をよくぞこれだけ集約できたもの だと大いに感心した。だが、予告がこれだけ面白いと、本編をみたときどうなるの、という問題が残る。言ってみれば屋台のかき氷を、 最初にストローでチューチュー吸ってしまった結果、肝心の氷にシロップの味が残っておらず愕然とした時の気持ちに似ている。

1920年代、タイ。幼いころ、冷酷非道な牛泥棒に両親を殺されたスー・シアン(ダン・チューポン)は、やがて成長しロケットマンとし て悪党どもをこらしめつつ、仇を探していた。ようやくそれらしき男(サマート・ティップタマイ)を発見したロケットマンだが、その 怪しげな部下や男の妖術により、すんでのところで取り逃がしてしまう。

のっけから強烈なアクション映画だ。なにしろこの映画の主人公ときたら、自作のロケット弾に飛び乗って大勢の敵と戦うのだから。 ヒーローが生活感丸出しの手作業でロケット弾を作るあたりもビミョーだが、そもそも1920年代の農耕地帯を舞台になぜロケットなのか という、意味不明な発想にショックを受ける。

敵が妖術使いというのもイカしており、空中を平手打ちすれば敵が横にすっ飛ぶという、低予算をカバーするすばらしいアイデアでその 強さを的確に演出。その部下は催眠術の賜物か、どうやら自分を猛獣と勘違いしているようで、どうみても効率の悪そうな四つんばい走 りで主人公の馬車を追いかける。見た目のインパクトだけはとにかく凄い。

その主人公だが、仇の目印は両親が殺されたときにチラ見した胸のイレズミだけ。なんともたよりない根拠である。また、敵の妖術をや ぶるには処女の血が有効と聞き、手近な美少女に開口一番「きみは処女?」と聞いたりもする。どうやらそうだとわかると「生理い つ?」ときた。そして迷惑なことに毎日彼女のそばで暮らし、経血がしみこんだ腰巻を干しているのを見てウヒョー顔で喜ぶ。下品にも ほどがある展開だ。

そんな、まったくうけないギャグを延々と続けながら、見せ場となればロケット弾に乗る。この素っ頓狂なオバカ映画は、一部のマニア ックな人たちにはたまらない魅力があるだろう。

『マッハ!』『七人のマッハ!!!!!!!』や『トム・ヤム・クン!』のスタッフが参加、とのふれこみだが、本作はワイヤーやCGを遠慮なく 多用しており、そうしたリアルスタントはもとより望めない。せめてラストのパンナー・リットグライ(先述3本を手がけたアクション監 督)vs.ダン・チューポン(『七人のマッハ!!!!!!!』主演)の師弟対決くらいは、もっとムエタイの純粋なアクションとして描いてほし かったが。

あの予告編を先に見てしまった人には少々薄味の本編であるが、アクションではなくオバカ映画として期待するなら、それなりに得るも のがある怪作といえるだろう。



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