『ローグ アサシン』60点(100点満点中)
War / ROGUE ASSASSIN 2007年10月6日、東映系にて全国ロードショー 2007年アメリカ/103分/配給:アスミック・エース=東映

とても食べあわせが悪い

『HERO』や『リーサル・ウェポン4』などの大ヒット作に出演、本物の少林拳の使い手として人気のジェット・リー。一方『トランスポーター』等で、元水泳の飛び込みトップアスリートらしい華麗な身のこなしを見せたジェイソン・ステイサム。この二人のアクションスターが共演となれば、かつてない凄いものを見せてくれるに違いない。本作品を見る前に多くの人が思うであろうそうした期待は、しかしいろいろな意味で裏切られる。

サンフランシスコのFBI捜査官クロフォード(ジェイソン・ステイサム)は、3年前に相棒とその家族を殺した裏社会の伝説的な殺し屋ローグ(ジェット・リー)が、再びこの街に舞い戻ってきたことを知る。中国マフィアと日本ヤクザの抗争が激化する今、ローグの真の狙いは何なのか。復讐に燃えるクロフォードは、徐々にローグに迫っていくが……。

日本のヤクザ社会が主な舞台となるので、日本人の観客にとっては退屈しない映画だ。しかも、洋画にありがちな"ヘンな描写"が多数。ヤクザの親分を演じる石橋凌以外、日本語の台詞すら怪しいという有様であるから、ほかは推して知るべし。奇妙なセットや風習など、それは見てのお楽しみだ。

主人公のジェイソン・ステイサム捜査官は日本文化に精通している設定で、地元の刑事に「ヤクザ街で仕事をする気なら、日本語くらいマスターしろボケ」などと日本語ですごむシーンがある。だが、そのお前の日本語が一番ヤバいだろうとのツッコミは、この映画を語るための基本中の基本である。また、石橋が娘役のデヴォン青木と日本語で会話する場面全般も、重要な笑いどころとして楽しむのが正しい。

しかし20年前ならいざしらず、いまでもアチラでの日本文化の認識とはこの程度なのだろうか。酢飯を使わず、しめてもいないネタを切ってのせただけの、想像するだに生臭い"自称"寿司店など、いい加減な日本食レストランが横行しているため、お墨付き制度を提案した農水省の気持ちがわかるというものだ。今度は映画のお墨付き制度でも提唱してみてはどうか。トンデモ日本度90%、等々。

さて、期待のアクションについてだが、主演二人によるスーパーバトルには思ったほど重点を置かれていない。むしろ石橋凌とジェット・リーの日本刀による戦いに見ごたえがあった。デヴォン青木やケイン・コスギなど、ほかにも面白そうな面々がそろっているのだから、このレベルの見せ場があといくつかはほしいところであった。

ただ、本作最大のウリは、暗殺者ローグにかかわる謎の解明。その意外性はなかなかのもので、この映画をアクション重視の内容と思って油断していると結構な衝撃を受ける。ただ、いくらシリアスな顔で彼らが演技していても、これだけ舞台がマンガ的だとどうにもならない。その食べ合わせの悪さは、まさに、炊き立ての米に血の滴る生魚を乗せた"自称"日本人が作った握り寿司のようだ。



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