『大統領暗殺』60点(100点満点中)
Death of a President 2007年10月6日よりシャンテシネほか全国公開 2006年/イギリス/93分/配給:プレシディオ
次は製作費100億円の大作で
わが国の安倍晋三首相は、美しい国にはあまりふさわしくない、みっともない格好で退陣してしまったが、もしアメリカ大統領が何者かに暗殺され、突然いなくなってしまったらどうだろう? この映画は、そんな不謹慎な想定のもとに、米国内の情勢を予測した擬似ドキュメンタリー(=モキュメンタリー)だ。
映画は大統領警護主任や補佐官、容疑者の妻らへのインタビューを中心に構成される。役者はみな無名、しかも脚本の全容を知らされずに撮影したとあってやたらとリアリティがある。途中にはさまれる実際のニュース映像の画質などは、監督の偏執的なまでの微調整によって、新規撮影部分との違和感が徹底して埋められている。
そうそう、この映画は『大統領暗殺』という邦題だが、宣伝会社は『ブッシュ暗殺』にすべく最後まで頑張ったという。結局、映倫の審査拒否によりその夢は破れたが、じっさい本作の内容は、アメリカ合衆国第43代大統領、ジョージ・ウォーカー・ブッシュを映画の中で(本人にはもちろん無断で)ブチ殺してしまうという、とんでもないものである。
それにしても彼は人気者だ。ドキュメンタリー作家のマイケル・ムーアには延々とストーカーされ『華氏911』なんて主演映画も(これまた勝手に)作られた。ドキュメンタリーとして全米興収記録を塗り替えたあの作品で、由緒あるラジー賞も受賞した。そして今回はよりにもよって暗殺、である。毎度のことだが知らない間に顔出し実名出しで、葬儀シーンまで撮影されているのだからたまらない。暗殺の瞬間の緊迫感も相当なもので、この監督の細部へのこだわりにはあきれるやら感心するやらだ。
物語?は、当局による真相探し、捜査の状況を追いながら、大統領暗殺が米国社会に与える様々な影響を暴き出していく。おそらく911後の米メディアの偏向報道あたりを風刺する意味合いもあるのだろうが、正直なところ中盤以降は退屈する。視線が米国内に向いているので、私たち外国人にとっては蚊帳の外感が強いのだ。こちらとしてはむしろ、2007年の今、米大統領が突然いなくなったときの国際情勢の変化をこそやってほしかったと思う。
北京五輪を控えたいま、千載一遇のチャンスを迎えた台湾独立問題や、北朝鮮の核問題など、日本周辺にいくつも火種があるこの状況下でのシミュレーションであれば、さぞ面白いものになったはずだ。ただそれは、この映画のような低予算の英国映画では無理。というわけで、もしこのアイデアのフォロアーがいたら、次はたっぷりとお金をかけた国際政治ものとして、発展させてほしいところだ。いいものを作れば、きっと天国の(?)ブッシュさんも喜んでくれるであろう。