『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』10点(100点満点中)
2007年10月6日(土)ロードショー 2007年/ビスタサイズ/115分/配給:松竹

告白シーンが変

ドリームズ・カム・トゥルーの名曲『未来予想図』そして『未来予想図II』は、カラオケ上手な女の子の最終兵器として当時は絶大な人気を誇っていた。安い中古車で彼女を送っていったあと、ブレーキをカクカク5回も踏んで、毎晩ムチ打ち気味になっていたかつての貧乏学生たちにとって、その映画化となればこれはもう、「多少の齟齬は目をつぶるから泣かせて頂戴」てな気持ちで前売り券を買うこと決定な一本である。

自主映画の撮影をきっかけに知り合った大学生のさやか(松下奈緒)と慶太(竹財輝之助)は、やがて自然と恋人同士に。卒業後、確たる夢もなくOLを続けるさやかに対し、慶太は、尊敬する建築家ガウディの後を追いスペイン行きを考えるようになる。二人が思い描き、歩いていく未来は、徐々に大きくずれていく。

あの曲を愛するものにとってはこの映画、適当なラブストーリーで最後にドリカムがかかればまあ満足、ってな程度の期待しかしていない。誰一人本作が、映画史に名を残す名作になるとは思っていない。しかし、それにしてもひどかった。

松下奈緒の女子大生が、老け顔のためオバサンのコスプレにしか見えないとか、衣装や髪型、セリフ等々、最初に出てくるテロップ以外まるで1997年に見えないとか、一般的な意味での問題点がいくつも目立つ。だが、そんな事は所詮微々たる問題である。くどいようだが最後に『未来予想図II』のサビさえ流れれば、よほどの事がない限りは感動して気持ちよく映画館を出てこれるはずなのだから。

しかし不幸なことに、その"よほどの事"が起きた。端的に言おう、この映画のクライマックスの告白シーンはおかしい。

あの時点では、女はまだ男を既婚者と誤認しているはずであり、告白を受けるということはすなわち、不倫OKと答えたのと同義になってしまう。観客の誤解は解けているが、劇中のヒロインのそれをまだ完全に解いてないから、感動シーンでなくセフレ申し込みの場面になってしまっている。ア・イ・シ・テ・ル、ではなく、や・ら・な・い・か、のサインでは涙も出ない。

そのせいで、二人の背後に豪快にあがる花火の数のありえなさについても、気にせずにいられるほど没頭できなかった。あれだけの都心で、いったい何箇所から打ち上げているのだという余計な思いが頭をよぎる。

あと100年は工事中といわれるサグラダ・ファミリアの美しい映像には心癒されたが、登場人物がありえない行動やセリフを吐くので話に集中できない。結局のところ本作はホームパーティなどで鑑賞し、みなで「ねーよ」と言い合いながらギャグ作品としてみる形に落ち着くのではないか。

松下奈緒はストレートから巻き髪まで、外見をころころ変えていく堂々のヒロインぶりで、彼女のアイドルものとして味わうやり方もあるだろう。しかし少なくとも、この曲のファン層たる30代以上のいい大人が、泣きにいけるような映画ではないことだけは確かである。



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