『パーフェクト・ストレンジャー』30点(100点満点中)
Perfect Stranger 2007年9月29日、サロンパスルーブル丸の内系他にて全国ロードショー 2007年/アメリカ/110分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ・ジャパン

ハル・ベリー、再びラジー賞候補か

魅力的な宣伝コピーを見ると、いやがうえにも期待が高まる。そして、それが過剰宣伝だとわかったときの落胆は、果てしなく大きい。『パーフェクト・ストレンジャー』のコピー「ラスト7分11秒、想像を遥かに超える"衝撃の真実"が明かされる」などは、その最たるものといえる。

女性記者ロウィーナ(ハル・ベリー)の幼馴染グレースが変死した。調べていくと、グレースがある大物財界人(ブルース・ウィリス)と不倫関係だったことがわかった。ロウィーナは、自らその男の会社に派遣社員を装って潜入、近づくとともに、旧知のハッカーの協力を得て真相解明に挑む。

この映画がダメな理由は、ハル&ブルースのすかした会話のうすら寒さとか、社長がちまちまとメッセンジャーによるエロ会話で、OLをナンパする情けなさをあげるだけで十分であるが、ここではミステリ映画として何が足りないのかを明らかにする。

まず、ヒロインのハル・ベリーを"嫌なやつキャラ"で登場させた点がまずい。そのため観客は、当初からこの人物を突き放した立場で見ることになり、そのままどんでん返しを迎えるので、せっかくのオチも「フーン」程度にしか感じない。このネタで驚かしたいのならば、監督はヒロインに対して観客をより深く感情移入させるべきであった。

また、この監督は何でもかんでも思わせぶりに見せればいいと思っているようだが、まったく間違っている。それはテレビ用オカルト映画の作り方であり、本格的なミステリでやれば嘲笑の対象となってしまう。オチに関しても、意外な犯人ならそれでいいというものではない。観客の盲点を突きつける形であれば、別に犯人じたいが予想通りでも客は驚くのだ。逆に何の伏線もなく、最後に突然隣の学校の用務員が出てきて犯人でしたと言われたら、劇場内は全員キレるか、爆笑の渦に包まれる。

よいミステリ映画を作るためには、まずは観客をのめりこませるだけの設定と魅力的な謎が不可欠。そして、ミスディレクションとヒントについては、絶対にそれと気づかせぬために脚本家は頭をひねらねばならない。島田荘司の有名なミステリ小説に、表紙に堂々と犯人と真相が書いてあるものがあるが、読み終わるまで絶対に読者は気づかない。終わって本を閉じてそれを見たときに、口ポカーン状態になるのである。"衝撃の真実"とは、こういうものにこそ相応しい言葉だろう。

『パーフェクト・ストレンジャー』には、上記であげた要素のどれ一つとしてない。普通なら、途中でやめたくなるほどトホホな出来だ。そういう意味では、あの宣伝コピーには、最後の7分間までなんとかお客さんを席にとどまらせる効果だけは、十分にあったといえるだろう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.