『幸せのレシピ』65点(100点満点中)
NO RESERVATIONS 2007年9月29日(土) 丸の内ピカデリー1他全国ロードショー 2007年/アメリカ/104分/配給:ワーナー

あたふたする完璧女はかわいらしい

私たちの日常生活においては、出産にせよ恋人にせよその前段階で心の準備をする余裕があるものだ。たとえば、友人関係から徐々に盛り上がっていくとか、10ヶ月の妊娠期間中に精神的にも母となっていったりという具合に。しかし映画の中では、突然それらがやってくるシチュエーションを設定し、意図的にドラマを作り出していくのが常道である。ドイツ映画『マーサの幸せレシピ』(01年)を丁寧にリメイクした『幸せのレシピ』も、その例に漏れない。

NYで人気のフレンチレストランでシェフを務めるケイト(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)。真面目一徹、完璧主義者の彼女は、ある日突然、姪っ子のポーラ(アビゲイル・ブレスリン)と暮らすことに。実母にジャンクフードを与えられて育ったポーラは、ケイトの繊細な料理には見向きもしない。おまけに久々に出勤すると、ラテンな性格のイタリア料理人(アーロン・エッカート)が新任の副シェフに。緊張感に満ちていたケイトの厨房は、彼によって妙にお気楽なムードに変えられてしまっていた。

まさに、ケイト受難の日々、である。キャリアを苦労して積み上げてきた彼女のような人物には、もともと完成された生活リズムというものがある。それを、突如やってきた二人によりかき乱されてしまう。ご飯を食べてくれない子供と、想像を絶する能天気男(しかも自分の大ファンときた)。どちらもケイトの経験では、とても対処しきれぬ難関だ。

外見も仕事能力もバッチリな"完璧な女性"が、あたふたと隙だらけになってしまう姿は男からみると非常にかわいい。ベテランカウンセラーとの奇妙なやりとりと合わせ、ユーモラスな見所となっている。

とはいえ、全体的にはシリアスなハートウォーミングストーリー。アメリカ映画らしくリメイクするなら、もう少し笑いの要素を強めてもよかったと個人的には思うが、バランスが良くそつのない作りは評価できる。擬似母子関係の構築、自身の恋愛、そして成長を、互いに絡めさせながら進めていく手練れた脚本で、途中にちりばめた伏線の回収も忘れていない。シンプルな音楽もよく似合っている。デート用、単独鑑賞用など、多用途にオススメできる、無難な感動モノといえよう。

先に公開されたピクサーアニメの新作とかぶるところが多いという不運はマイナスだが、ネズミよりはゼタ=ジョーンズのような美人が作った料理のほうが、少なくともおいしそうに見える。……が、現実の彼女は玉子焼きも満足に作れなかったらしい(それはそれで良いとは思うが)。もちろん映画の中では、頑固でわがままな魅力的なシェフを、それらしくしっかりと演じている。

ちなみに彼女は、ニューヨークにあるミシュラン一つ星のイタリア料理店『フィアマ・オステリア』で役作りのために修行。ウェイトレスも体験したそうだ。お客さんは「なんかあの店員、キャサリン・ゼタ=ジョーンズに似てるねぇ」とヒソヒソ話していたそうだが、本人と知らされたにはさぞ仰天したことだろう。



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