『包帯クラブ』55点(100点満点中)
2007年9月15日(土)全国ロードショー 2007年/日本/118分/配給:東映
柳楽優弥の押尾学化に驚く
柳楽優弥は、『誰も知らない』(04年)で、カンヌ国際映画祭男優賞を史上最年少(14歳)で受賞した華麗な経歴を持つ。ピュアな風貌のこの子供が、この先どんな方向に進むのか、当時の映画関係者は期待と不安をもってみていたものだ。あれからわずか3年、彼は本作で早くも役者としてのターニングポイントを迎えた。そして、あのときのあどけない少年は、意外な方向へと歩き始めた。
病院の屋上にひとりたたずんでいるワラ(石原さとみ)をみて、自殺を心配したディノ(柳楽優弥)は声をかける。インチキな関西弁を話すディノは、やがて「手当てや」などといい包帯を屋上のフェンスに巻きつける。その奇妙な行動にしかし癒されたワラは、親友のタンシオ(貫地谷しほり)やメル友のギモ(田中圭)らと共に、包帯クラブを結成する。
奇妙な役名と思うかもしれないがこれは友人間で呼び合うニックネームで、その実態はごく普通の現代青春ドラマである。彼ら包帯クラブは、何かに傷ついた人をネットで募集し、その原因となる場所に包帯を巻きつけ写真を送付してあげる活動を行う。たとえばサッカーの試合でオウンゴールをして落ち込む少年のために、サッカーゴールを包帯でぐるぐる巻きにした写真を撮影、彼にメール送信するといった具合だ。
それがなんで癒しになるのかさっぱりわからないし、堤幸彦監督(『トリック 劇場版』『池袋ウエストゲートパーク』等)の若々しい演出も説得力を与えるまでには至っていない。だが、これはこの映画にのめりこめるか否かの最重要ポイントであるから、なんとしても各自で自分の心を納得させていただきたい。
さて、それさえ出来ればこの映画はなかなかよく出来た青春ものだ。原作者の天童荒太は脚本家の経験があるせいか、映画向きの「絵になる」物語を作る。本作でも町中に包帯を巻く様子は、まるで何かのアートを見るようで面白い。クライマックスではその最たるものが見られ、結構な見所となっている。
ロケ地となった群馬県高崎市は、山がほど近い美しい地方都市で、独特ののんびりした気風が本作からも伝わってくる。優しさを交換しあう少年少女たちの人情物語の舞台としてはぴったりといえるだろう。これがもし、せちがらい東京の都心部で同じことをやったら、すぐに当局につかまってクラブの部員たちの頭の中身に包帯を巻かれてしまう。
さて、この映画で特筆すべきは主演の柳楽優弥と石原さとみの緊張感あふれる演技にある。石原は自然体の演技が見るものにストレスを与えず、いい具合に柳楽の"怪演"を引き立てている。
柳楽が演じるキャラクターディノは、とにかくエキセントリックな人物で、毎日奇行を繰り返し、家族や学校から問題児と見られている設定。その行動には彼なりの意味と目的があるようなのだが、テントの中で大量の爆竹を鳴らすなど、理解に苦しむものばかり。じつはそれには隠された真の理由があるのだが、それが明らかになった後のいくつかのシークエンスにおける柳楽の演技と堤幸彦監督の演出センスは素晴らしいの一語に尽きる。心に残る感動的な場面になっているので、これはぜひ期待してほしい。
柳楽優弥の今回の役作りは、おそらく彼が心の師匠と仰ぐ押尾学から得たものに違いない。というより、本作の柳楽優弥はどこからどうみても押尾学そのものだ。残念ながら師匠は不遇の立場となってしまったが、よもやこんなところに後継者がいたとは驚きである。押尾ファンもこれで一安心といったところだ。柳楽優弥には、ぜひこれから数々の新しい伝説を作っていってほしい。
なお、エンドロールのあとにワンシーン残っているので、最後の最後まで味わいつくしてからお帰りのほどを。