『ホステル2』70点(100点満点中)
Hostel: Part II 2007年9月8日(土)より渋谷シアターN、新宿K's cinemaにて公開 2007年/アメリカ映画/94分/配給:デスペラード

怖さから面白さへチェンジ

全身を金粉メイクした芸人が"皮膚呼吸"できずに死んだとか、中国の見世物小屋で両手両足を切断されたダルマ女性が日本語で助けを求めてきたとか、殺人場面を収録したスナッフビデオが高額で取引されているといった数々の都市伝説。そのほとんどは根拠のない嘘っぱちだが、「もしかしたらあるかもしれない」シンプルなリアリティが、我々の興味をひきつけてやまない。

そんな不気味ネタのひとつ、「金持ちの拷問同好会に、生贄となる若者を提供するホステル経営者」を、荒唐無稽さを抑えてホラームービーにしたイーライ・ロス監督『ホステル』の続編がこれ。万が一、都市伝説を信じてしまう純情な方が見たら、前作同様二度と海外の安宿に泊まることはできなくなるだろう。

アメリカ人の留学生少女3人組が、良質な天然温泉があると聞いてスロバキアのホステルにやってきた。だがそこは秘密拷問クラブと提携(?)する恐怖の館。彼女らは自分の知らぬ間に世界中のセレブ会員相手のオークションにかけられ、いつのまにか誰かに「自由なやり方で拷問して殺してよい」権利を買われているのだった。

イーライ・ロスという監督は、30代という若さのおかげか、あるいは自身もホラー映画の熱烈なファンだからか、客層の好みが良くわかっている。空気を読むに聡いというか、どこでどうすれば観客がリアリティを感じるか、そしてそれを怖さにつなげられるか、的確に計算した上でショックシーンの演出を行っているふしがある。でなければ、こんなに馬鹿馬鹿しい噂話を、これだけ見ごたえあるホラーシリーズに調理できるはずがない。

特に冴えてるなと思わせるのは、たとえばこの続編を、同じホステルを舞台にしながらまったくマンネリ感を感じさせない脚本にしたところ。具体的にいうと、犠牲者視点ではなく加害者視点(少女を買った金持ち変態男の視点)をメインに描いたあたりが秀逸。

この変態男ときたら、インテリならではのひ弱な精神を、殺人をすることで克服し、「男」になろうと考えたらしい。今回クラブに新入会、はじめてのひとごろしを敢行するにあたり、ドキドキワクワク、罪悪感で鬱になったり、良心の呵責に悩んだりしながら当日を迎える。小学生の悪ガキグループが、入会の儀式として担任の家のチャイムを押して逃げてくるようなノリである。

犠牲者の美少女たちが自分たちの運命と必死に戦うスリリングなストーリーと並行して、前作の裏事情、血塗られたホステルの舞台裏をチラ見させてくれる面白さがこのパート2のキモであろう。

ただ、都市伝説ネタを映画にしながらその真相をやってしまうということは、抜群の面白さと引き換えに(詳細が明らかにならないことによる)気味悪さや怖さを失う諸刃の剣でもある。じっさい、怖さだけなら前作比60パーセント減といったところだ。

しかし、それでもこのアイデアは正解だった。なにより、同じ事を繰り返して飽きられる「ホラー続編が陥りがちなジレンマ」を回避できた事が大きい。この流れでいくと、パート3の展開は○○○で決まりだな、と予感させる面白さもある。ホステルシリーズは、毎回微妙にジャンルと見所を変化させることで、ネタとしての輝きを失わずにいけそうだ。このあたり、この監督の若々しいチャレンジ精神の賜物といえる。製作総指揮のクエンティン・タランティーノがお気に入り、というのうなづける。

裸もヘアも残酷シーンも遠慮なく出るのでR-18指定。そして前作の事前の鑑賞は必須。その上、都市伝説を聞くのが大好きで、ワクワクしちゃうという人限定。だが、そうした条件に当てはまる人がみたら、間違いなく面白いすぐれた一本。『ホステル2』は、傑作の続編として、二番煎じにならずに正しい方向性を見つけることができた、数少ない成功例といえる。



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