『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』60点(100点満点中)
Eva: 1.0 You Are (Not) Alone 2007年9月1日、渋谷東急他全国松竹・東急系にてロードショー 2007年/日本/98分/配給:クロックワークス、カラー/配給協力・宣伝:日活
端々から感じられる不気味な違和感の正体とは?
アメリカで製作の話が進む『新世紀エヴァンゲリオン』実写版に先駆け、オリジナルテレビアニメ版の主要スタッフ・キャストによる"リビルド"3部作が作られることになった。その期待の一作目がこの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 EVANGELION:1.0 YOU ARE (NOT) ALONE』。
テレビ版ダイジェストの劇場用Zガンダム3部作がヒットしたため、エヴァンゲリオンで二番煎じをするのかなと、当初私は思っていた。実際普通にみれば、「なんだよ、テレビん時と同じじゃん、見る価値無し」で終わってしまいかねないほど、ストーリーも絵柄も同じである。
映画版ストーリーの具体的な流れとしては、シンジが召集されるトコから始まり、日本中の電力を戦略自衛隊の長距離砲に集中させ、使徒ラミエル(青いプリズム体みたいなヤツね)を狙撃するヤシマ作戦までが描かれる。
まず見所としては、使徒迎撃のため設計された要塞都市である"第三新東京市"の変形シーンをあげたい(重要な高層ビルはネルフ本部がある地下の巨大空間ジオフロントに収納できる)。3DCGで描かれ、ギミックとしての面白さ、描写の迫力が大きく増した。また、シンジが乗る初号機のデザインも一部変更されており、おやっと思わせる。
しかし、本作を見てコアなエヴァファンならきっと感じるであろう違和感の正体は、そういう見た目からくるものではない。
そう、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』は、一見テレビとまったく同じ。しかし、「なにかが違う」のである。
これは「序」であるから、まだその変化はとても小さく、注意しなければわからない。それはたとえば、カヲルが早くも登場し、しかもシンジの事をなぜか知っていたり、あるいは使徒の順序が狂っていたりといった、一見些細なことがらだ。
だが、それらは「破」「急」と続くこの先の展開を、とてつもなく大きく変えてしまうのではないかと予感させるに十分。だいたい、オリジナルでアニメ史の流れを変えてしまった庵野秀明(総監督)が、このまま平凡なダイジェスト、もしくはリメイクを作るはずがない。きっと今回も、こちらを仰天させるような隠し球を用意しているに違いない。
さて次に、映画として見た本作の第一印象だが、当時あれほど新鮮にみえたこの作品も、さすがに今見ると古典だな、というものであった。
時代の流れはどんどん速くなっている。とりわけ本作はその後のアニメ制作に与えた影響がきわめて甚大で、あらゆるディテールが数え切れないほど真似されていった。だからこそ、そのように感じたのだろう。
少々気になったのは、綾波レイの扱いが小さいこと。なにしろ彼女が零号機で出撃する場面が無い上、シンジを命がけで守るヤシマ作戦でも爆煙でほとんど見えないので、活躍している印象がまったく無い。よって、初めて笑うせっかくの名場面の味わいもやや薄い。ファンもきっと不満であろう。なお、もう一人のヒロインであるアスカはまだ出てこない。
エンドロールの後には、ミサトのおなじみの決めセリフが楽しい次回作の予告編が入っているが、これはサービス映像としての役割以上に重要な情報源であるから、絶対に見逃さぬよう。短い時間に、次回以降大きく進行方向を変えていくであろうヱヴァンゲリヲン新劇場版のエッセンスが詰まっている。
なお、私はこれを都内の映画館で初日の初回に見たが、さすがはいちど庵野秀明に大きく騙されている老獪なエヴァファンたち。大劇場を埋めた彼らの誰一人として、エンドロールの途中で席を立つものはいなかった。また、上映後にはグッズ売り場に信じられないような長蛇の列を作っていたのも印象的であった。
もうひとつ、この映画にエヴァンゲリオン初心者の方を連れて行くのはあまりオススメしない。ためしに私は本シリーズを知らないスタッフを連れて行ったが「眠くなるけど(アクションシーンが)うるさくて眠れず、早く終わらないかとずっと思ってた」などと散々な評価であった。
確かに、ただでさえ説明不足な原版をさらに縮めているのだから、理解不能に陥るのは仕方がない。そもそもエヴァンゲリオンの面白さとは、一回の放映分にちりばめられた聖書用語やカバラの要素を(次回までの一週間かけて)ああだこうだ解釈したり、以降の展開を予測したりすることだったのだから、それを一気に98分で見るのは無理がある(そしてもったいない)。
むしろ、先述したようにこれは「オリジナルから離れていく期待感」を楽しむべきであり、そうなるとやはり一見さんお断り、となるのはやむをえない。
なんにせよ、その"期待感"だけは十分に感じさせる。ただ、例によって最後がバタバタ、結局未完成で公開、なんて顛末にならぬよう、スタッフの皆さんには強くお願い申し上げたい。