『トランスフォーマー』80点(100点満点中)
Transformers: The Movie 2007年8月4日(土)全国一斉ロードショー 2007年/2時間25分/翻訳:松崎広幸/配給:UIP映画

父子で楽しめるカッコイイ軍隊&戦闘スペクタクル映像展

『トランスフォーマー』のような、超ド派手ノーテンキ超大作を見に行くということは、年に何度か遊園地に行って頭をリフレッシュするのと目的は同じだ。一見、大人がいくような場所(映画)には見えないかもしれないが、こういうものは現代人にとって定期的に必要なビタミン剤のようなもの。ただ、それを作るのは予想以上に難しいもので、良く効くビタミン剤は意外と少ない。

火星方面からやってきた謎の物体が、世界各地で人類を脅かそうとしていた。中東のカタールでは軍事ヘリが突然二足歩行ロボットに変形、米軍基地を壊滅に追いやった。一方、気弱な男子高校生サム(シャイア・ラブーフ)が、学園のアイドル的存在のミカエラ(ミーガン・フォックス)の気を引きたくて父親に買ってもらったポンコツ車も、まるでサムを守る意思を持っているかのような奇妙な挙動を見せ始めていた。

日本生まれのアメリカ育ち。タカラの人形シリーズを元に数々の映像、アニメ作品として発展したトランスフォーマーがついに実写映画になった。マイケル・ベイ監督&スティーブン・スピルバーグ製作総指揮という、ハリウッドのエンターテナーの代名詞のような二人による、本年度最大級の超大作である。本国では早くもオープニング成績がなんと全米映画史上最高記録という、とんでもない事になっている。父子二代で楽しめる優良コンテンツへ、さらに付加価値を加えた理想的なケースだ。優れた原作をことごとく使い捨てにするどこかの国の映画業界は、大いに見習ってほしいものだ。

『トランスフォーマー』は徹底して男の子向けの映画で、米空軍全面協力の大迫力戦闘映像が最大のウリとなっている。要するに、悪のトランスフォーマー軍と戦うカッコイイ自国の軍隊の活躍が見られるというわけだ。軍が撮影協力するということはすなわちプロパガンダ映画であるから、反戦主義者がみたら間違いなく目を回すに違いない。

近未来的なフォルムを持つ垂直離着陸機V-22オスプレイや、安倍政権を嫌う米国がなかなか売ってくれない最新鋭ステルス戦闘機F-22の編隊、ガンシップの105mm弾による猛烈な地上攻撃など、とにかく見栄えのする兵器の活躍シーンが満載。それがハリウッドの誇るVFX職人によって、地球外生命と本物の戦争そっくりにバトルを繰り広げるのだから、軍マニアにはたまらない。

ちなみにマイケル・ベイ監督は、軍の指揮官と綿密な打ち合わせをして、彼らが実際トランスフォーマーに遭遇したらどのような作戦行動をとるか意見を聞いたうえで、本作のアクションシーンを設計している。地球外生命体と米空軍の対戦シミュレーション。リアルなんだか嘘っぱちなんだかよくわからないが、その熱意だけはさすがだ。

また本作は、この映画のメイン客層となるであろうオタクたちを礼賛した映画でもある。主人公はクラスの中心派閥から離れたいわゆるナード=オタクで、彼が人類の危機を前に大活躍し、学園で一番イケてるチアリーダーの女の子に好きになられちゃうストーリー。まさに、トランスフォーマー以上に激しいフィクションである。

しかもご丁寧に、彼らナードの天敵であるジョック(=スポーツマン。アメリカ映画で登場する場合は、イケテル男を表す記号となる)がヒロインに振られるシーンも用意されている。観客はここで現実におけるうっぷんを晴らし、拍手喝さいするというわけだ。さらに途中には引きこもりのハッカーが活躍する局面まであるなど、さすがはマイケルベイ映画、そのサービス精神は一級品だ。

だが逆に言えば、女の子の観客にとってこの映画のストーリーは、夢を見る余地など一切ない。むしろ当のアタシたちが男どもの夢の対象にされているわけで、居心地が悪いかもしれない。

ところで、往年のトランスフォーマーファンにとっては、ロボットの名称に米国版のものが使用されているのが少々不満であろう。字幕が公開版で修正されるかは不明だが、できればオプティマスプライムではなくコンボイと表記してほしい。ただ、吹き替え版の声優にアニメ版でおなじみの玄田哲章をあてたその配慮はなかなか粋である。

また、『ビーストウォーズ』あたりで顕著だった、アドリブ風のギャグの応酬を髣髴とさせるコメディシークエンスが用意されているあたりも、ファンにとってはうれしい所だろう。戦いの緊張感をうまく逃すこうした遊びこそが、このシリーズの醍醐味でもある。

この映画の難点は、とくにラストバトルなど、トランスフォーマーが激しく動く際にカメラが寄りすぎて、逆に映像の快感度を下げている点だ。トランスフォーマーの動く速度のリアリティには相当力を入れたようなので、なるべくCGのアラが目立たないようにとの意味合いもあるのだろうが、こちらとしてはもっと引きの映像を入れてほしいと思う。

NSAやらFBIやら宇宙軍やら、際限なく広がるスケールのでかさも夏の超大作にふさわしく、またマイケル・ベイ監督作品らしい華やかさがある。広がったまま収拾つかなくなっている大味具合には苦笑するが、それもまた味というものだ。

正直なところ、同じブロックバスター(大作映画)でもスペクタクルの見せ方は公開中の『ダイハード4.0』の方がずっと上なのだが、こちらには親子で見られるという強みがある。マイケル・ベイはいんちきな日本描写で悪名高い『パール・ハーバー』のせいでわが国では不当に低く評価されているが、なんだかんだいっても毎回平均以上の映画を出してくる。世界有数の優れたエンターテイナー、良質なビタミン剤の安定した供給者であることは疑いない。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.