『TOKKO −特攻−』60点(100点満点中)
Wings of Defeat 2007年/アメリカ/90分/配給:シネカノン

そうは見えないが、実際のところは偏った内容

夏になると戦争映画の公開が増えてくるのは、8月15日を終戦記念日とする日本の特徴だ。しかしこの特攻映画の監督は意外なことにアメリカ人。これはいったいどうしたことか。答えは簡単、この映画の監督リサ・モリモトは、その名から想像できる通り日系人。自らのルーツと決して無関係でないこのテーマを選び、今回ドキュメンタリーとしてまとめたというわけだ。

そんなわけで本作最大の見所、特徴は、「9.11テロを体験した典型的アメリカ価値観を持つ日系人、それも若い女性から見た特攻隊の解釈」ということになる。

取材形式と構成は昔ながらの伝統的な方法。すなわち多くの関係者へのインタビューを複合的に交えていくというものだ。唯一ユニークなのは、映画の最後に短めの再現アニメがくっついている点。このアニメーションはなかなか良くできていて、出撃の恐怖感、臨場感がよく伝わってくる。

『TOKKO −特攻−』はカナダの映画祭で反響を呼んだというが、私がこれを見て思ったのは、「今から作る証言集積型の特攻ドキュメンタリーはダメかもしれない」ということだ。なぜそう感じたかというと、現時点で健在な元軍人の証言者は学徒動員の生き残り、すなわちアマチュアの見方であることが多いためだ。

とくに、その人物が戦後の長い時間を経て典型的な平和至上主義者になってしまっているような場合、えてして当時の国際情勢、日本のおかれた地政学的宿命という視点がすっぽりと抜け落ちている事が少なくない。

(開戦初期の、士気高いプロフェッショナルな旧日本軍人とは違う)そうした人々の証言ばかりを集めた本作のようなドキュメンタリーは、どうしても内容が偏りがちになる。だが、多くの観客は旧軍人の生き残りにも様々な種類の人物がいるなどという事を意識することは普通ないから、これが偏った意見であるということすら気づかないはずだ。

おまけに本作は、作っているのが戦勝国側、日系人とはいっても中身は典型的なアメリカ人、戦後民主主義バンザイ人ときた。となれば、「非人道的な命令を下した軍部への批判的視点」や、「いきたくないのに無理やり決死の作戦に動員された悲劇」といったムードに流されやすいのは自明の理。案の定、この監督もそのループにはまっている。

それにしたって、一度こうした真摯な姿勢のドキュメンタリー映画として出来上がってしまえば、これを見たとくに欧米人の多くは、これが特攻隊の唯一絶対的な真実であろうと思い込んでしまうに違いない。しかし物事には必ず表裏があり、特攻隊にしてもまったく違った見方もあるのだ。現代の映画人はそろそろ、こうした語りつくされたありがちな結論とは違う、もうひとつの視点を提起するものを作るべきではないのか。

リサ・モリモト監督は、若く(幼く?)見える東洋人的な風貌の女性ということと、まるで祖父に質問するがごとき素朴な話し方のおかげで、本作で多くの貴重な証言を得ることができた。なかでも特攻機に突入された米駆逐艦クルーの生存者の証言は必見である。

なお、個人的にはこの監督に、原爆投下や戦略爆撃(東京爆撃)など、一般に非人道的といわれる米軍の諸作戦を次回作のテーマに選んでほしいなと思う。

「早期講和を実現した」などというバカげた原爆神話(現在も信仰中)を批判するのは無理にしても、都市を無差別に破壊する戦略爆撃からはほぼ脱却した現在の米国(イラク戦争では湾岸戦争時に比べ、"人道的"な精密誘導爆撃の比率が飛躍的にアップし、完全に過半数を占めた)でなら、政治的にも作りやすかろう。

日系アメリカ人女性が作るそんな内容のドキュメンタリーを、皆さんは見てみたいとは思わないだろうか?

カミカゼの真実―特攻隊はテロではない。
特攻隊についてのもうひとつの視点。
国を愛するということ―散華した特攻隊員の遺した「託し」
これもおすすめの特攻関連本ということで。


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