『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』50点(100点満点中)
Harry Potter and the Order of the Phoenix 2007年7月20日(金)、サロンパス ルーブル丸の内他全国ロードショー 2007年アメリカ/2時間18分/配給:ワーナーブラザーズ
まるで中休み
その年の興行収入では必ずトップ候補となるこの超人気シリーズも、はや5本目。これだけ回を重ねれば、水戸黄門的なマンネリズムを獲得するのが一般的だが、この魔法使いものは、最強最後の敵"ヴォルデモート卿"を倒すという目的に向かうサーガ(冒険譚)であり、同時にキャラクター3人の成長物語であるから、常に毎回新鮮な興味を与えてくれる。
ホグワーツ魔法学校5年生となったハリー(ダニエル・ラドクリフ)は、掟を破って人間界で魔法を使ってしまい、退学騒動を巻き起こす。ダンブルドア校長(マイケル・ガンボン)のはからいで事なきを得たものの、結果的に校長を追い落としたい魔法省に付け入る隙を与えてしまう。ホグワーツには監視役の女教師が送り込まれ、ハリーは彼女の目を盗みつつ、ロン(ルパート・グリント)、ハーマイオニー(エマ・ワトソン)らと共にヴォルデモート卿対策としてのダンブルドア軍団を結成、訓練することになる。
このシリーズ5作目は、あきれるくらい話が進まない。映画版は1作で1年間を描いているはずだが、肝心のヴォルデモート卿が攻め入ってくる気配も恐怖も感じられない。天下の大魔王もずいぶんのんきなものである。
おまけにハリー・ポッターときたら、魔法界の救世主となるであろう自分の立場を忘れたか、中国系美少女同級生を口説きまくり、あろうことか自分が大将をつとめるゲリラ軍団に彼女を引き入れ、神聖なる訓練場で練習後、チュッチュ×2といちゃついている始末。まったくもって緊迫感のかけらもない。
クィディッチの大会や三大魔法学校対抗試合など、映像的な見せ場になりやすい前作までと違ってエピソードがすべて地味というのも、原作ファン以外の鑑賞者にとっては物足りないところ。なにしろいちばんの見所がハリーのキスシーンおよび、その後ハーちゃんを交えての談話室でのキス体験談というのだから推して知るべし。(この場面でのエマ・ワトソンの恥じらい+興味津々な表情は大変よろしい)
ようするにこの「不死鳥の騎士団」は、CGやらバトルやらといった派手さではなく、シリーズもうひとつの魅力である「胸キュン青春もの」「少年少女の思春期成長もの」としての側面を楽しむべき一本というわけだ。
しかしそれにしても、混浴シーンやらハーマイオニーのツンデレ化といった、わかりやすい萌え演出がなされていた前作「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」と比べれば、数段劣るといわざるを得ない。
映画版は分厚い原作を、ハリー周辺のみをメインにした脚本へ組みなおすことでなんとか2時間半強に収めているので、世界観の広がりが犠牲になりがち。だが、そのあたりは新聞記事を多用してホグワーツ以外の人々を観客に意識させるなどなど、うまく処理している。監督はシリーズ初登板、英国人のデヴィッド・イェーツに変更されているが、映像面を含めたクォリティの維持は最低限なされているといえるだろう。
キャラクターが完成しているため、大外れはないものの、思わせぶりなまま放置された伏線など、細部が荒っぽい印象も強く受ける。次回作は、早くもオッサン化しつつあるロン役ルパート・グリントの成長速度に追いつくくらいの進歩をみせていただきたいと強く願う。