『Genius Party ジーニアス・パーティ』70点(100点満点中)
Genius Party 2007年7月7日(土)シネリーブル池袋、渋谷シネ・アミューズ他 全国順次ロードショー!! 2007年/日本/104分/配給:日活

日本アニメの魅力がつまったオムニバス

短編を集めたオムニバスという形式は、全部が好みでなくとも楽しめるという点で、飽きっぽい人に向くと私は思っている。たとえ興味がなくとも15分待てば次が始まるのだ。120分間苦痛が続く可能性がある長編作品を見るよりは、圧倒的にリスクが少ない。

『Genius Party ジーニアス・パーティ』は、適度に前衛的・実験的な作品あり、万人ウケしそうな娯楽作品ありと、幅広いジャンルを誇るオムニバスアニメーション作品。真っ先に感じるのは、これだけいろいろなジャンルを平然と作ってのける日本アニメ界の層の厚さと、これまたそれを平然と受け入れるであろう日本のアニメファンの懐の深さである。

ジブリ作品のようなファミリーアニメから、それこそロリータ趣味のエロアニメまで、すべて一人でたしなむファンすらこの国では珍しくない。実写映画の世界では、なかなかそういう人はいない。だが、そんなアニメファンたちの存在によって、日本のアニメ文化は磨かれ、今では世界に誇るコンテンツに育った。彼らの情熱とスケベ心に、私は最大限の敬意を表する。

とはいえ、『Genius Party ジーニアス・パーティ』にエロの要素は無いのでくれぐれも誤解なきよう。この作品は、7人の監督がそれぞれの得意分野を、あるいは未開拓の分野の作品を持ち寄った短編集で、アニメーション制作はSTUDIO4℃による。この制作スタジオは、最近では、海外でも絶賛された『鉄コン筋クリート』(06年)でその力を見せ付けた。商業面より、比較的作家性を尊重しているイメージが強いところだ。

さて、ここで私が気に入ったいくつかの作品の見所をざっと紹介してみよう。

まず、マクロスシリーズで知られる河森正治監督の『上海大竜』。これは近未来の中国と思しき街を舞台にしたSFで、激しいメカバトルが見もの。スピード感にあふれ、パースを強調した日本アニメの王道を行くアクション作品で、大いに楽しめる。

『マインド・ゲーム』(04年)の湯浅政明監督からは『夢みるキカイ』という一風変わった冒険もの。かわいい赤ちゃんが、哺乳瓶を持って外の世界に足を踏み出す。出会いと別れを繰り返す中で、冷酷な世界の法則を学んでいくストーリーは、セリフが無いのにこちらに雄弁に語りかけてくる。

『BABY BLUE』は渡辺信一郎監督(『アニマトリックス』(03))としては意外な青春もの。カンヌ助演男優賞・史上最年少受賞の柳楽優弥と、アカデミー助演女優賞ノミネートの菊地凛子が声優をやっているのも話題だ。内容はせつない系のラブストーリーで、背景美術も美しく、いちばん一般ウケしそうなもの。私がこれを高く評価するのは、実写で出来そうな話をアニメならではの映像表現を交えて作ってあるから。それこそが、日本アニメの真髄ともいうべきものだと私は感じている。

それにしても、たった104分間で日本のアニメーションの底力を体験できるとはじつに便利かつお得な一本だ。『Genius Party ジーニアス・パーティ』は、完成度の高い長編をみたときの強烈に残る満足感とはまた違う、鑑賞後にバーにでも寄って連れと細部を語り合いたくなるような、静かな魅力に満ちた作品といえる。



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