『人間椅子』55点(100点満点中)
2007年6月30日から7月6日まで、シアターN渋谷にてレイトショー 2006年/日本/76分/配給:アートポート
小沢真珠のひとり濡れ場
江戸川乱歩といえば、大正から昭和にかけて活躍した、日本ミステリ界黎明期の大作家。少年向けのシリーズものも有名だが、マニア好みの怪奇趣味を生かしたダークな作品も数多い。抜群の知名度があることから、平成になった今でも映像化される事は珍しくない。
この「人間椅子」は、ラストの衝撃度の高さでミステリファンの間ではあまりにも有名な作品。何度か映像化されているが、なにしろこのトリックは映像向きではない。また、有名すぎるということもあってか、本作では設定とストーリーが変更されている。
大御所作家・大河内の弟子だった佳子(小沢真珠)は、今では失踪した彼に代わって人気女流作家として鳴らしていた。新しく担当になった真里(宮地真緒)は、佳子が大河内の愛人として変態プレイをしていたという噂に興味を示す。なぜなら真里も、有名人が使用したスプーンなどのゴミを集める性癖があったからだ。
さて、人気作家に「書かせる」ことが仕事である編集者の真里は、夜な夜な佳子のもとに通って彼女の様々なゴミを拾い集める。そんな風に密着していたためか、やがて真理にゴーストライターがついているのではと気づき、その正体を探るためにさらなる深みに入っていく。
そこで登場するのが「人間椅子」である。椅子の中に男が入り、愛する女に座られることを極上の喜びとする。革一枚をへだてて相手の体重やぬくもり、感触に興奮する。究極のフェチ行為というわけだ。
もしアナタが今座っているそのソファの中に人がはいっていたら……? それは女性にとって、根源的な恐怖でもあろう。だがそれが、愛する人であったならどうか。椅子の"中身"を扇情的な動きで誘惑し、やがて奇妙な愛の行為にいたるこの映画のカップルの姿は、しかし意外なほど変態的ではない。
この場面を体当たりで演じる小沢真珠の表情は、ヌードにもならず、裸の男と抱き合うわけでもないが、まぎれもなく濡れ場に挑む女優のそれ。真っ黒な巨大な一人がけソファの不気味なビジュアルと色白な肌の対比がじつに鮮やか。感触チラリズムの話とわかってはいるものの、その薄く白い布の下も見てみたい。
映画自体も、レイトショー公開のマニアックな怪奇ミステリというわりには安っぽさがなく、しっかりとしたつくり。ミステリ的な要素は薄く、変態的恋愛の方に重きを置いている模様だ。
この次の週にはこちらも変態チックな設定で知られる「屋根裏の散歩者」が公開され、両者は「エロチック乱歩」と銘打たれている。現代によみがえった原作のテイストを味わいたい方は、夕食後にお出かけになってみては?