『転校生 -さよなら あなた-』65点(100点満点中)
2007年6月23日、新宿ガーデンシネマほか全国ロードショー 2007年/日本/120分/配給:角川映画

斜め構図と後半の唐突な展開はNG

心は自分のままで、カラダだけ異性と入れ替わる。しかも相手はクラスメートの可愛い幼馴染。……そんな、思春期の少年少女の琴線に触れる設定が有名な「転校生」は、いうまでもなく青春ファンタジーの名手、大林宣彦監督の代表作。今回は、自身の手による25年ぶりのリメイクとなる。

両親の離婚により、母親と信州に越してきた一夫(森田直幸)は、転校先で幼馴染の一美(蓮佛美沙子)と再会する。懐かしい思い出を語り合いながら、二人にとって大切な場所「さびしらの水場」にやってきた彼らは、足を滑らせて転落、岸に上がったときは身体だけ入れ替わっていた。

「大人になったらお嫁さんになってあげるって、キスしたじゃない」 すっかり美少女中学生へと成長した幼少期の幼馴染が恥じらいもせずそんな事をいう。相変わらず大林監督は、少年どもの心(と下半身)を刺激する小技が上手い。この瞬間、萌えは世代を超えた。

信州が舞台という事でわかるとおり、(尾道を舞台にした三部作として知られる)オリジナルとは大幅にストーリーが異なる。たとえば、主人公二人にはそれぞれ別の彼氏彼女がいるが、4人が集う後半の展開がまったく違う。

ヒロインに大きな試練が待ち受けるこの部分は、オリジナルを知る人にとっても予測がつかぬ方向へと話が膨らんでいく。しかし、私が見るにこの後半は、物語のあるべき流れからは浮いている。無理に川の流れを変えた結果、堤防作りが間に合わず決壊してしまったような形になっている。

その理由は、この試練がなぜおきたのか(入れ替わりが原因なのかそうでないのか)、明らかにしないことによるキモチの悪さも原因のひとつ。そのため、とってつけたような唐突感が拭えぬままエンディングを迎える格好になった。これはまったく不要な筋書き変更だったのではないか。

また、やたらとカメラを斜めに傾けた構図も、監督の意図する演出効果が不明瞭であまり良い細工とは思えない。てっきり身体が入れ替わったら直るのかと思っていたが、そうではなかった。どうも大林監督はよほどこのアイデアが気に入っていると見える。

最後に、いよいよ肝心のヒロイン蓮佛美沙子について。角川映画主催のスーパー・ヒロイン・オーディション ミス・フェニックス第一回グランプリであるこのキュートな少女は、今回が映画初主演。

そして大林宣彦といえば、脱がし屋としてロリな人々の間ではあまりにも有名。下品さを感じさせず、ノスタルジーという魔法のオブラートで包んでしまうあたりが、職人といわれる所以だ。今回も、蓮佛美沙子の年齢(撮影当時は15、6歳くらいか)からしたら、驚くばかりの露出に挑戦して(させて)いる。

とはいえこのご時世、オリジナルのヒロイン役、小林聡美ほどあからさまに裸にするわけにもいかなかったのであろう。さしもの大林監督といえど、相当おとなしめの撮影となってしまったのは残念なところ。

ただそれでも、男の子になりきった演技力、個性的なルックスなどスクリーンに映える要素をいくつも持っている彼女の今後には大いに期待ができそうだ。

映画のほうも、彼女の魅力とそこそこのクオリティによって、並の上程度の青春ムービーに仕上がっている。尾道三部作の奇跡のような出来栄えには及ばないが、純粋に新作としてみればまあまあではないだろうか。



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