『舞妓 Haaaan!!!』45点(100点満点中)
2007年6月16日、全国東宝系にてロードショー公開 2007年/日本/120分/配給:東宝
ハイテンションな阿部サダヲが見所
『さくらん』で蜷川実花監督が江戸吉原・花魁の世界を華々しく描いたかと思えば、ハリウッド映画『SAYURI』ではチャン・ツィイーが京都の舞妓を演じた。そして今回は宮藤官九郎脚本で同じく舞妓をテーマにした娯楽映画が作られる。最近は伝統的な女性の様式美が人気のようだ。
東京の食品会社に勤めるサラリーマン、鬼塚(阿部サダヲ) は、自他共に認める舞妓オタク。彼女(柴咲コウ)そっちのけでマニアックなファンサイトを運営していた。彼は、給料の多くが頻繁な京都通いの交通費で消えるほどだったが、ある日自分の掲示板で何者かに、"実際は一度も茶屋遊びをしたことがない"事を見抜かれてしまう。
「舞妓と野球拳がしたい」との壮大な夢を持つ鬼塚はここで一念発起、お座敷の常連である自社の社長(伊東四朗)に認めてもらい茶屋に連れて行ってもらうため、インスタントラーメンの新商品開発に命を懸ける。
少年時代の思い出により、異常なまでに舞妓に執着する男の猪突猛進ぶりで笑わせるコメディー。
なにしろ京都のお座敷といえば、そこらのキャバクラと違って紹介者なしではのれんをくぐることすらできない世界。大資本によるチェーン店が蔓延し、全国の地方都市がそろって個性を失いコピペ状態となった現在、わずかに残る「伝統的町文化」だ。そんな古都の夜の紹介をうまく組み込みながら奇想天外なストーリーを紡ぐ器用さはいかにも宮藤官九郎。
主人公の男が、たかが舞妓遊びのために観客の想像を絶する大活躍、大出世をするあたりが痛快。これまでのクドカン作品の中では比較的ストレートなギャグばかりなので、素直にノリよく笑って楽しむのが正解。
ただ客観的に見れば『舞妓 Haaaan!!!』は、ドラマの軸がしっかりしていないため、見ごたえはまったくない。単なる自分勝手な悪ノリをみせられているだけ、といった印象を受ける。
その原因のひとつは、「堤真一演じる野球選手と舞妓の駒子の秘められた関係」と、「主人公&柴咲コウのカップル」という、本来軸となるべき重要な2つの人間関係をきちんと処理していないから。それぞれ、相手に対する思いがあまりに無感情なため、結末の感動も爽快感も薄く感じられてしまうのだ。
もうひとつの原因は、肝心の舞妓文化に対する敬意がこの映画からは感じられないという点。「なんか謎めいてるし、きらびやかだし、舞妓をネタに映画作ったら面白いんじゃない?」「いくらでもギャグ思いつくな」「よしやろう」程度の発想で舞い上がってるんじゃないかさえ思えてしまう。
「舞妓をネタに面白いものを作ってやろう」という発想は、作り手側の単なる自己愛(自分の才能がかわいいだけ)にすぎない。文化に対する愛情から来たものではないから、じつに底が浅い。安直かつ安易な企画と批判されるべきであろう。
となると結局、本作は阿部サダヲのハイテンション演技を見るしかない映画ということになってしまう。それで満足できる人のみ、映画館に行けばよい。