『Watch with Me 〜卒業写真〜』65点(100点満点中)
2007年6月9日新宿バルト9他全国公開 2007年/日本/125分/配給:ティ・ジョイ

マジメに死を描く

特定のヒット曲をモチーフにした映画は数多い(最近では長澤まさみの『涙そうそう』など)が、人気と知名度をあてこんだお手軽映画である場合も少なくない。しかし、荒井由実の有名曲と同じ名を持つ本作は、幸いにしてその手の安直な作品ではない。

末期がんで余命半年とされる元報道カメラマン(津田寛治)が、故郷である福岡県久留米市のホスピスへ転院してきた。中学時代からの親友らが多数訪れる中、彼の脳裏にはどうしても思い出せない少女の姿があった。

自分に写真の楽しさを教えてくれたこの少女についての詳細を必死に思い出しながら、主人公は故郷の風景や人々を撮った写真集の作成に余生をかける。

撮影中に知人をなくした瀬木直貴監督の思いが込められているのか、「死」というものとマジメに向き合った作品だ。見ている方までつらくなる闘病生活から、やがて最期のときが間近に迫るまでを丁寧に追いかけ、本人と周り(家族と友人)が徐々に死を受け入れていく心理をリアルに表現する。

タイムリミットが迫る状況で、いまなお初恋の思い出を追いかける夫に嫉妬する妻の姿が生々しい。が、男の目から見るとこれまたリアルな話。なにしろ中学生くらいの年頃は、精神的な発育度合いが男<女であるから、この映画の回想シーンにおける主人公と少女のような心のすれ違いは誰もが実感できるところ。

そっけない態度、正面から向かい合えない気恥ずかしさ──。何年か後、未熟だった自分があのころの少女に追いついたとき、多くの男たちは激しく後悔する。若い人の恋愛には、そういう切ない局面がつきものだ。

とはいえ、この映画のこうしたエピソードは平凡で、展開にまったくといっていいほど興味がわいてこない。言ってしまえば、ストーリーに求心力がなくつまらない。

福岡市オールロケ(正しくは久留米を中心とした筑後地方。海岸線は福岡県宗像、列車内は山口県山陰本線で撮影…2007/08/13追記)のご当地映画でもあるから、久留米に縁のある人にとっては面白く見られると思うが、万人を感動させる普遍性があるかというとそうでもない。演出面は悪くないだけに、もう少し映画にするに足る話を考えられないものかと思うが。



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