『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』40点(100点満点中)
Pirates of the Caribbean: At Worlds End 2007年5月25日(金)より全世界同時全国超拡大ロードショー 2007年/アメリカ/配給:ブエナビスタ・インターナショナル(ジャパン)
アトラクション並にチープな3作目
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズが、ディズニーランドのアトラクションの映画化だという事実は、そろそろ忘れられかけている。
東インド会社のベケット卿(トム・ホランダー)は、不死の船長デイヴィ・ジョーンズ(ビル・ナイ)の心臓を手に入れることで彼とその船を意のままに操り、世界中の海賊を追い詰めていた。危機感を感じた海賊側は海賊長9人が集まり、対策会議を開くことに。その一人でデイヴィジョーンズに死の世界に追いやられたジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)を救い出すため、エリザベス・スワン(キーラ・ナイトレイ)とウィル・ターナー(オーランド・ブルーム)らはキャプテン・バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)の力を借りて世界の果てに向かう。
元ネタであるディズニーランドの乗り物「カリブの海賊」同様、「長蛇の列で期待したわりには大して面白くない」映画である。そういう意味では見事なまでに"原作"に忠実な映画化といえる。
パート1から続く、「主人公3人以外の人間描写が薄い」という欠点が、いよいよこの大団円でボディブローのように効いてきた。この致命的欠点を抱えているせいで、もっとも重要なウィルの父親との物語にまるで求心力がなく、結果として(このエピソードが大きく絡む)結末までイマイチ感が残ることになった。
映像が物凄いからそれでも損した気分にはならないが、それにしてもこの3作目は見せ場に欠ける。クライマックスの渦巻きバトルに至ってようやくスカッとさせてもらえるものの、この長尺(なんと170分)なら同レベルのスペクタクルがあと3つはほしい。
本来ならそのひとつを担うはずの冒頭のシンガポール海賊とのスリリングな交渉場面(リーダー役はチョウ・ユンファ)も、信じられないほどセットおよび照明が安っぽく、驚いてしまった。そのチープ感たるや、まさにテーマパーク並。製作費2億ドルのうたい文句が泣く。
たいして複雑な話でもないくせに、語り口が妙にわかりにくいのもマイナス。伏線の回収にいたっては、信じられないほどなげやりだ。とくに、海賊の女神についてのそれはひどい。あれだけ劇中で煽っておいて、出来損ないの綾波レイが出てきておしまいとはあきれ果てる。
時間は長いくせに丁寧に話を組み立てていないから、最後に海賊どもが団結する必然性も説得力もまったく感じられず、連中がただのバカにしか見えない。
会話にユーモアもなく、いや、ユーモアは交えてあるがまったく笑えない。私はこれを熱狂的ファンが集まると予想される都内の某映画館の前夜祭で見たが、誰一人クスリとも笑っていなかった。これでは熱狂的ではない一般人はなおのこと笑えまい。
中でも、キース・リチャーズが出てきたときには私は思わず目を覆った。ジョニー・デップが彼を役作りの参考にしたからああいう役で出したのだろうが、役作りという現実そのものをファンタジー世界に持ち込むとは、無粋な内輪ウケもいいところだ。それは決して遊び心などと呼んですまされる話ではない。
また、これは単なる私の思い入れかもしれないが、海賊映画というものはもっと夢のあるものであってほしいと思う。『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』の海賊バトルの演出には、心躍るアイデアというものが見られず、またそのために頭を振り絞った跡も見受けられない。ゴア・ヴァービンスキーという監督は、このシリーズ以外の過去作品を見ても同じであるから、これは彼の資質不足だろうと思う。
超話題作の先行上映でもまず埋まらないあの某劇場がほぼ満員になったくらいだから、きっとこの映画は大ヒットするだろう。これを読んでいる皆さんも、これで期待度は多少下がったかもしれないが観にいく人もたくさんいるだろう。その場合は、長い長い本編のあとのエンドロールの途中で決して帰らないように。本当のラストシーンは、その一番最後に流される。超映画批評をずっと読んでいる人は、このシリーズが毎回同じパターン(エンドロール後にラストシーン)であることを知っているから大丈夫とは思うが念のため。
しかし、今回も多くの人がその途中で帰ってしまうのを見て、私は正直腹が立ってきた。帰った観客ではなく、ゴア・ヴァービンスキー監督に対してだ。エンドロールのあとに1場面やそこら残してある映画は珍しくもないが、その場合は何かしらそれを予測できるヒントを本編の最後で提示したり、エンドロールに装飾を施したりして観客が間違って帰ってしまわぬよう、対処してあるのが普通だ。
ところがこの、それこそ映画など年に一度しか見ないようなお客さんが多数訪れることがわかりきった作品で、この監督はそういう変化球を何の前触れもなく投げる。これは娯楽映画の監督なら当然意識すべき観客層というものをまったく考慮していない、あまりに自分勝手なやり方だ。
ディズニー側としてもさすがにマズイだろうと思っているらしいのは、入場前に渡されるチラシ風のガイドに「エンドロールが終わるまでじっくりご鑑賞ください」と書いてあるのを見ればわかる。なんとも後味の悪いワールドエンド、であった。