『監督・ばんざい!』70点(100点満点中)
2007年6月1日よりテアトルタイムズスクエアほか全国にて公開 2007年/日本/104分/配給:東京テアトル、オフィス北野

99%の人にとっては0点

なぜこの点数なんだと思うかもしれないが、そこだけ見て判断しないでほしい。これは「ビートたけしのやることならすべて受け入れられる」という特殊な人がみてギリギリこのくらいだろうという点数であり、それ以外の人にとってこの映画はおそらく0点である。

主人公の映画監督キタノ(ビートたけし)は、得意のギャング映画を「二度と撮らない」と宣言してしまった。そこで、これまで撮ったことのない小津安二郎風のドラマや流行の昭和ノスタルジーもの、ホラーやらラブストーリーに挑戦するがどれも性に合わない。そんな彼がたどりついた詐欺師とその娘を主人公にしたストーリーは、しかしそのどれよりも無茶苦茶なものだった。

『ALWAYS』風の昭和懐古ものを撮ってみたら、治安の悪い下町でとてつもなく貧乏なガキどもが暴れまくる、夢のかけらもないどころかあまりにリアルすぎてシャレにならない映画になった。北野監督が典型的な人気ジャンルを手がけると、こんな風になるよ的なショートムービーの連続で、前半は大いに笑わせる。冗談とはいえそれぞれの作品は豪華なキャストと本格的な撮影でクオリティが高く、大いに見ごたえがある。

とはいえ、一般人がついていけるのはそこまで。中盤以降、詐欺師のストーリーが始まってからはナンセンスの度合いが際限なく増幅をはじめ、観客を突き放していく。わかりにくいと言われた『TAKESHIS’』が幼児用おもちゃに見えるくらい、すべてが意味不明でぶち壊れている。

かつてビートたけしは「たけしの挑戦状」なる確信的クソゲーを発表し、当時の子供たちの常識を破壊した。なにしろこれ、絶対にクリヤーできないほど難易度が高い凶悪な一本なのだ。だいたい、コントローラーのマイクで歌を上手に歌わなければ先にいけないなどという発想を、どこの誰ができるというのだ。これを体験した子供たちは、たけしという男の持つ、既存のジャンルを壊す発想と創造力に驚き、敬意を払ったものだ。

しかし家庭用ゲーム黎明期には通じたその破壊力も、映画という成熟した大きなジャンルが相手では、大海に毒を投じるようなもの。悲しいかな空回りである。北野監督が本作でやった無茶苦茶は、残念ながら目の肥えた映画ファンたちにとっては、それほど驚かされるほどのものではない。

むしろコメディーとしてはギャグをことごとく外しており、あの圧倒的な笑いの才能についに陰りが見えはじめたのかと、個人的にはとても寂しいものがあった。正直なところ、これを撮ったときの北野監督は精神面での体調が悪かったのではないかと心配になった。

『監督・ばんざい!』は、既存のジャンルを壊すという北野監督の特長を一見踏襲しているように見えるが、方向性を誤った失敗作だと私は判断する。どんなに向こう見ずなことをしてもそこに戦略的計算を感じさせる彼の才能が、今回私にはまったく見えなかった。もし次回もこの手の映画を作ってしまったら、さすがに北野映画のブランド力も終わるだろう。



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