『ザ・シューター/極大射程』65点(100点満点中)
Shooter 2007年6月1日(金)日劇3ほか全国ロードショー 2007年/アメリカ/124分/配給:UIP映画

撃たれても平気で動き回る

日本には「ゴルゴ13」があるおかげで、全年齢的に狙撃者ものを受け入れる層が一定数存在する。戦士の中でもっとも天才的で職人気質の印象が強いスナイパーは、日本人の性にも合うのだ。

この『ザ・シューター/極大射程』もそんな狙撃者もののひとつ。宝島社の伝統あるランキング「このミステリーがすごい!」2000年の海外部門で一位となったスティーヴン・ハンターの原作を映画化したものだ。

かつてエリトリアでの軍事作戦中、上層部から見捨てられた米海兵隊の凄腕狙撃手ボブ・リー・スワガー(マーク・ウォールバーグ)は、生還後世捨て人となって山中でひっそり暮らしていた。そんな彼を、ある日ジョンソン大佐(ダニー・グローヴァー)らがたずねてくる。大佐によると、何者かによる大統領暗殺計画が発覚、遊説先のどこに警備の穴があるか、スワガーに調べてほしいというのだ。

困った人を見捨てられないヒーローは、依頼を受けたはいいものの、お約束どおり陰謀に巻き込まれる。いつの間にやら犯人扱い、政府や真犯人から負われる身となるのだ。この圧倒的不利な状況から、徒手空拳で逃げまくる序盤のシークエンスが面白い。意外な方法で怪我の手当てをしたり、追う警察のヘリを翻弄したりとワクワクドキドキ。主人公ボブ・リー・スワガーの機転と身体能力の高さを、観客へアピールする演出の一環となっている。

ところで冒頭、天才的で職人気質と書いたが、この映画に出てくる主人公はどちらかというとアメリカ人好みのマッチョ志向。小銃と手榴弾をぶちまけながら破壊しまくるコマンドーやランボーほどではないが、かといって静寂の中を一発でしとめる静かな戦いばかりというわけでもない。

いや、むしろ主人公よりマッチョなのは、アントワーン・フークア監督(「ティアーズ・オブ・ザ・サン」ほか)の頭の中か。なにしろこの監督ときたら、記憶力がたったの2時間も持たないのだ。

たとえば途中、スワガーが2発の弾丸を食らった事など、その数十分後にはすっかり忘れ去られている。五輪選手も真っ青なくらい、走るわ転がるわの大活躍。私は始終、彼が撃たれた場所が気になって仕方なかったが、どうやら心配する必要はなかったようだ。

スワガーを助ける元FBI局員も、半人前の新人という設定のはずが、主人公と行動をともにしたとたん、いつの間にやら名狙撃手になったり撃たれても立ち上がったりと超人に変身。FBI時代にその能力を発揮してればきっと大出世していたろう。

さらに、この映画に出てくる女は、みなそろって巨乳で性格も顔も美人である。マッチョと巨乳に悪いやつはいない。これぞアメリカン価値観だ。一方、悪役のほうはデブオヤジとガリベン。じつにわかりやすい。

しかし、そんなリアリティのなさを気にさせぬほどのサービス精神の旺盛さには好感が持てる。アクションも逃亡劇も平均以上で、お気楽ハリウッド映画らしい楽しさに満ちている。また、アメリカの現政権批判めいた側面もあるが、こんな陰謀ものでそんな事をやっても仕方がない。そのあたりの台詞をカットした字幕制作者はなかなか親切である。

本格派狙撃アクションを求める人にはちょいとアレだが、おバカなマッチョ巨乳アクションを受け入れられる人には必要十分な出来といえる。



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