『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』40点(100点満点中)
2007年5月12日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー 2006年/アメリカ/109分/配給:UIP映画
どこかでみたモノの張り合わせ
熱狂的なファンがいるかと思えばまったくその良さがわからない。そんな、好みが激しく分かれる映画がある。たとえば『パルプ・フィクション』や『スナッチ』、『オーシャンズ11』といった作品はその範疇に入るといえるだろう。この『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』もまさにそうした一本で、少数の熱狂的支持者になれる人にとっては幸せな出会いとなるだろうが、それ以外の多くの観客にとってはおそらく退屈な内容だ。
FBIの張り込み捜査員らは、マフィアのボスがイズラエル(ジェレミー・ピヴェン)という男に100万ドルの高額賞金をかけたとの会話を盗聴する。イズラエルはラスベガスの裏社会とかかわりの深いマジシャンだが、大物気取りでギャングまがいの組織を作るなど、"本物"たちの秩序を乱す存在となっていた。かくして重要証人でもあるイズラエルを保護するFBIと、彼の首を狙う7人の凄腕殺し屋たちの、激しい争奪戦が繰り広げられる。
登場人物が非常に多く、また印象に残る前にえらいハイテンポで視点が切り替わっていくので、顔と名前を一致させるのに難儀する。事前にパンフの相関図で予習するなり、気合を入れて冒頭で覚えてしまうなりの努力が必要だ。
ベン・アフレックやアンディ・ガルシアといった人気スターもキャスティングされているが、どいつもこいつも極端な性格設定だったりして、感情移入する余地はほとんどない。
また、本作は銃撃戦などアクションの激しさもウリで、50口径の狙撃銃で隣のビルからフロアごと破壊する女殺し屋がいるかと思えば、なぜかチェーンソーで攻撃してくる狂った兄弟など、ブラックジョーク的な悪ノリでハチャメチャな戦い=イズラエルをめぐるバトルロイヤルが繰り広げられる。
私はアクションシーンというものは、見た目の派手さ以前にいかにキャラクターに魅力を持たせるかが客のボルテージを上げるポイントだと思っているが、この点本作は弱い。狂ったヤツらが全員でバカみたいにドンパチしているのをみて、おもしれえなあと思う事はあるかもしれないが、興奮することはまずあるまい。
また、物語の後半にはあっといわせる仕掛けがあるが、こういうモノもこの手の悪ノリ系暴走映画においては効果が薄い。どんでん返しとはロジカルなストーリーに配置してこそ、大きな意外性を発揮するのだ。これではただ奇をてらっただけにすぎない。「あ、この映画最初からひねくれてたからやっぱりネ」と思われて終わりだ。『NARC ナーク』(02年、米)であれほどのストーリーテリングを見せたジョー・カーナハン監督だったので期待していたのだが、もし彼が今後もこの路線で行くとなると個人的には残念だ。
『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』は「型破り」とのうたい文句とはうらはらに、つきぬけ切れない「管理された型破り」の映画だ。ウリの銃撃戦とてどこかで見たような演出ばかりで新味がない。それでも、常識はずれなキャラクターやそうしたアクションシーンを見て爆笑しながら楽しめるようなタイプの人なら、ためしに見てみては、といったところ。