『眉山 -びざん-』55点(100点満点中)
2007年5月12日公開 2007年/日本/カラー/配給:東宝

女優を綺麗に撮ろうという執念だけは凄い

さだまさしの小説はここ数年映画界で人気のようで、『精霊流し』『解夏』と立て続けに公開されている。どちらもさっぱり面白くないのだからもうよせばいいのに、人が入るとなれば懲りずにまたやるのがこの業界の常。今回は天下の松嶋菜々子を主演にした、堂々の映画化だ。

東京の旅行代理店でバリバリ働く咲子(松嶋菜々子)は、母(宮本信子)が入院したと聞き、急ぎ徳島へ帰郷する。母は末期ガンであった。しかし、元々神田の飲み屋の有名女将だった彼女は、相変わらずの江戸っ子気質で看護婦を元気にしかりつけている始末。そんな姿にあきれた咲子は、しかし母から死んだと聞かされていた父の生存を偶然知る。咲子は母が生きているうちに彼女の本当の人生を知りたいと、父の消息を探りはじめる。

この映画の途中のつまらなさときたら、凄まじいの一語につきる。開始後1時間くらいは何とかつきあったが、いいかげんさっさと話を先に進めろと、お客様相談室にクレーム電話のひとつもかけたくなった。久々に映画で見た母親役の宮本信子と、やはり圧倒的な存在感を放つ松嶋菜々子の魅力的な演技がなかったら、どうにもならないところであった。あとはクライマックスの阿波踊りの圧倒的な迫力。その3つしかみるところがない。

母の女としての側面を知り成長する娘の心や、死後、医学生の解剖に自分の遺体を提供する献体についてのテーマもあるが、とってつけたようでまるで心に響かない。

その代わりといってはなんだが、女優のきれいさはハンパではない。だいたいこの犬童一心という監督は、女を綺麗に撮る執念にかけては常軌を逸したようなところがある。たとえば夕暮れのシーンだというのに、ギラギラとレフ板の光を下から顔にあて、女優の肌を10歳ほど若返らせる位のことは平気でやる。太陽が足元にいるのかよと、見ていて思わず苦笑してしまうほどだ。

しかも、松嶋菜々子は172cmとも174cmともいわれる見事な長身を誇る女優だ。これは、ヒールを履けば180cmに届くことを意味する。そんな事はまあ、どうでもいい。ともあれこうした背の高い女性は恋人にするには最適だが、じつのところ映画女優としては横長スクリーンに収まりにくいというデメリットを背負っている。

想像してもらえればわかると思うが、たとえば女同士の2ショットで片方がこれだけ高い場合、普通にバスト上のショットを撮ると松嶋の頭頂部だけスクリーンから切らざるを得ない。構図のバランスを考えたら、自然とそうなってしまう。本当はヒロインをメインに撮ってやりたくても、強制的にそうなってしまう。

そんなハンディがあるからこそ、それでも松嶋がこれだけ可愛く映っているこの映画(とカントク)は凄いのだ。着物姿のうなじが汗ばみ、うぶ毛がぴったりとはりついている。そんなあまりに色っぽいクローズアップの挿入を決して忘れない犬童監督のスケベ心たるや、日本最強クラスと称えるべきであろう。

そんなわけで、前に書いたように見所はたったの3つしかない映画ではあるが、松嶋菜々子ファンは安心して劇場に向かうと良い。彼女が映るすべてのショットに犬童監督渾身のスケベパワーがつまっており、大きな満足を得ることができるはずだ。



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