『スパイダーマン3』55点(100点満点中)
Spider-Man 3
2007年5月1日(火)より日劇1ほか全国一斉、世界最速ロードショー! 2007年/アメリカ/139分/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給
一歩進んで二歩下がる
アメコミ原作の大人気アクションシリーズ第三弾である本作は、背負うプレッシャーもシリーズ最大。なにしろ、あれだけ面白かったパート1を上回るほど二作目の出来栄えが良かったのだ。数を重ねりゃネタは減る、しかしお客の期待は膨れ上がる。作り手の悩みどころだ。
いまやニューヨーク市民すべてのヒーローとなったスパイダーマン。その正体ピーター・パーカー(トビー・マグワイア)も内心鼻高々だ。恋人の新人女優メリー・ジェーン=MJ(キルステン・ダンスト)との仲も好調で、いよいよプロポーズを考えている。しかしMJのほうは初の主演舞台を干され、どん底気分。そんな折、ピーターの叔父を殺した真犯人が脱獄したとの驚くべき知らせが入る。
この3におけるテーマは「復讐」。登場する敵は複数いるが、みなその一念を腹に持つことで共通している。そして毎度おなじみウジウジ君であるピーターの今回の悩みもまさにそれ。最強のパワーを手にした今、愛する叔父を殺した凶悪犯への復讐心を抑えることはできるのか。
やがて謎の黒い生命体にとり付かれ、全身黒尽くめのブラックスパイダーマンと化す彼は、性格も徐々に凶暴に変わっていき、精神をのっとられる寸前に。
さて、このパート3がどうもスカッとしないのは、この「ウジウジ君モード」があまりに長すぎて、見ているコチラがイライラするというのがまず一点。
この映画のスパイダーマンは、仮にもヒーローの職にありながら、人助けというものをほとんどしない(見せてくれない)。たまに助けたと思ったら、もともと知り合いだった美人のオトモダチだったりする。名もなき一般の人々を助けるのが本来の仕事というのに、ピーターパーカーもサム・ライミ監督もすっかり忘れてしまったか。
むろん、このパート3の時点ですでに彼はNYで押しも押されぬ英雄であり、いちいちそんな場面を描く必要はないとの考え方もわからぬではない。……が、観客としてはこれがパート3だろうと10だろうと、一番見たいのはスパイダーマンの活躍姿だ。おいしいものは何度食べてもおいしい。3皿目はもう要らないだろという理屈は通用しない。
「ヒーロー映画なのに人命救助の喜びがない」というこの欠点は、本来シリーズ中もっともスケールの大きな話であるはずにもかかわらず、妙にチマチマした印象しか感じないというマイナスを生みだした。そりゃそうだ、ビバリーヒルズ青春白書よろしく、知り合い同士の閉じられた世界だけで救助ごっこをやっていれば、おのずと世界観はグングン狭まる。たとえシリーズ最大の敵が現れようが、決して外側にスケール感が広がっていきはしない。このパート3は原作の登場人物にこだわって、映画からのファンの視点を見失っている。
もうおなじみの、NYの高層ビル街を糸を飛ばしながら飛び回るアクションシーンにしても、すごい迫力で楽しい事は確かだが、1や2より凄いかというと素直にうなづけない。むしろ代わり映えがしないともとれ、もっとパワーアップしたものを見たいとの贅沢な希望はかなえられずに終わる。
さらに今回、パワーアップした黒いスパイダーマンが戦う夜の場面は、黒背景に黒となってしまい、動きの面白さが伝わりにくいという弱点もある。
役者の面では恋人MJ役のキルスティン・ダンストがどこか変。ふっくらした輪郭にとんがった前歯という、彼女のチャームポイントが失われ、まるで別人のような細い顔になってしまった。パート4からは、彼女の顔に高度なCG処理が必要になりそうだ。
ストーリー面はさらに問題で、知らないはずの事をペラペラしゃべる男がいたり、ワルが突然改心したりと荒っぽいことこの上ない。オマエのその突然のアドレナリン低下は一体何なんだと、ツッコミのひとつも入れたくなる。伏線ひとつ張ればすむところを、なぜそんなにいき急ぐのか。
結論としては、水前寺清子の歌よろしく、パート2まで上り続けた階段をこの3で二段ほど下りてしまったという感じ。これまでが良かっただけに、ファンとしては相当高いハードルを作り手に要求したが、サム・ライミはじめスタッフはそれを飛び越えることが出来なかった。