『神童』60点(100点満点中)
2007年4月21日、シネマライズほかにて全国ロードショー 2007年/日本/配給:ビターズ・エンド

前半は良かったが徐々に失速

二ノ宮知子の漫画『のだめカンタービレ』と、それを原作にしたアニメ、ドラマのヒットに代表されるとおり、昨今はクラシック音楽ブームといわれている。そんな『のだめ』以前に「漫画アクション」で連載されていたさそうあきらによる音楽漫画が「神童」、本作の原作である。

音大を目指す浪人生の和音=ワオ(松山ケンイチ)は、毎日実家の八百屋の二階で下手なピアノを練習して、近所からどなり倒される日々。そんなとき商店街を通りがかった恐れ知らずな14歳の少女うた(成海(なるみ)璃子(りこ))は、勝手に部屋に上がりこんでプロ級の演奏を披露する。その日から、なぜかワオの家を気に入り通いつめるようになる彼女。言葉より先に楽譜を覚えた天才少女のうたは、指の怪我を恐れて体育すら受けさせない母やまわりの大人たちにウンザリしていたのだった。

大学生と14歳少女の交流の物語だ。怒鳴られる青年と過保護にされる少女。才能の有無により両極端な環境で過ごす二人は、互いの持ち物をうらやみながらも、補完的なその境遇のおかげで急速に距離を縮めていく。良い影響を与え合い、二人とも成長していく様子が伝わってくる(どちらかというと、影響を受けているのはむしろワオの方ばかりであるが……)。

年下の美少女にビシバシリードされていく男の構図は、ツンデレ好きの私としてはこたえられねえねぇと江戸っ子訛りのひとつも出てしまいそうなものであるが、べつにこれはロリータな恋愛映画というわけではない。もっと健全な心のふれあいを描く人間ドラマである。

話の進行はなかなか上手く、ユーモアのセンスもいい。主人公二人の演技もまあまあ。松山のとぼけた感じはなかなかのものだし、成海璃子の年齢を超えた神々しさは、いかにも天才のもつオーラ風味。また、本人もピアノは得意中の得意ということで、演奏シーンにも乱れは無い。

演奏センス皆無な私などは、マンツーマンレッスンでやっと途中まで覚えたベートーベンの『月光』を弾いても、なぜか楽しげなワルツに聞こえてしまう。だからピアノをひける人の指を見ると(とくにラフマニノフの速い曲とか)神が宿っているとしか思えないのだが、この映画のうたもまさしくそんな感じだ。

ただ、そうした前半の軽妙なペースはすぐに失われ、中盤は相当間延びする。クライマックスのコンサートの場面も期待するほど盛り上がることなく、そのままサラっと終わってしまう。うたの抱えるある問題の詳細および物語上の位置づけについてもやや不明瞭さが残る。

これは単に私が原作を読んでいないからかも知れないが、少なくとも未読派にとって満足度の高いできばえとはいい難い。役者の演技と楽曲のすばらしさ、題材への興味でこの点数にしたが、ドラマとしてはまだまだ改善の余地は大いにある。途中までは良かっただけにじつに惜しい。



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