『クィーン』40点(100点満点中)
The Queen 2007年4月14日よりシャンテシネほか全国拡大ロードショー 2006年/イギリス、フランス、イタリア/97分/配給:エイベックス・エンタテインメント
不自然に美化したキモチ悪さがこびりついている
1997年8月にパリで交通事故死したダイアナ元皇太子妃の死因について、ロンドン警視庁は2006年12月14日、「単なる事故死」との報告書を発表した。数々の状況証拠と鉄壁過ぎる動機が存在するためいまだ謀殺説がやむ事はないが、とにかく英国政府および王室側は、そこから国民の目をそむけたくて仕方がないという動きをここ最近見せている。だいたいこの「世界中が待ちに待った」報告書でさえ、わざわざ英国内で大事件が重なった当日に発表したとの指摘がなされている。
この「ダイアナ」事件の舞台裏を、エリザベス女王を主人公にして王室の側から描いたのが「クィーン」。女王を演じてオスカーを受賞したヘレン・ミレンはじめ、作品賞、監督賞など計6部門にノミネートされた作品ではあるが、こうした政治的なドラマはそんな話題性に惑わされることなく、上記のような現実の文脈の中で見ることが肝要となる。
97年8月、ダイアナが交通事故死した。すでにチャールズ皇太子とは離婚していたとはいえ、公式コメントもせず国民の前にも姿を現さぬ女王(ヘレン・ミレン)、そして王室のやり方に、英国民は激しい非難を浴びせた。若くして有能なトニー・ブレア新首相(マイケル・シーン)は何度も女王に会い、伝統より国民への対応をと説得するが彼女はなかなか首を振らない。しかし女王も、国民と王室の間で板ばさみとなり、激しく葛藤していたのだった。
ダイアナの死により穏やかな暮らしを乱されたエリザベス女王が、マスコミによって煽られた国民からバッシングとブーイングを浴びせられながらも、しかし威厳を保ち続けるという話。皇太后の毒舌ぶりや、人間味ありまくりのブレア首相など、実名で登場する人々がユーモアあふれる会話劇を繰り広げ、大いに楽しませてくれる。
いまやレームダックと化しつつあるブレア首相であるが、労働者たる国民の代表ながら王室の伝統にも配慮する見事なバランス感覚で、この映画の中ではずいぶんとヒロイックな立場だ。 一見すると、王室を救うために奮闘する首相の美談にさえ見えるほど。
とはいえ最後に女王が彼に語る皮肉めいた言葉や現在のブレアの状況を考えると、この映画の主役(物語上の、という意味のみならず)が誰は一目瞭然。謀殺説や陰謀説、いや、そもそも同乗者で同時に亡くなったダイアナの恋人ドディ・アルファイドの素性についてすらほとんど触れぬ非現実的な内容を見るに、この映画がどの方面からのプロパガンダかよくわかる。
この映画を見て「現役の人々を実名で映画化するなんて、英国って開かれてるね」なんて感想を抱く人も多いだろうが、そんなことがなぜ出来たのかを冒頭に書いた点とあわせて考えるとわかりやすい。
このように、現実をネタにしたドラマにリアリティを感じにくい場合、私はどうしても冷めてしまう。実在の人物を不自然なまでに美化しているわけで、なかなか共感しにくいものがある。
念のため書いておくが、この映画を見てもあの事件の真実、および政治の本質などはまったく見えてこない。もっとも、そういう側面を無視することによって、はじめて大衆におもねるような美談的ストーリーを作り上げることが出来たのだが。少なくとも実際の舞台裏は、こんななまっちょろいものでは絶対にないだろう。