『ツォツィ』75点(100点満点中)
TSOTSI 2007年4月14日より全国ロードショー 2005年/イギリス・南アフリカ/95分/配給:日活、インターフィルム

絶望の中で輝く希望の光

泥棒がひょんなことから誘拐した赤ちゃんの世話に振り回され、やがてそのピュアな微笑みに癒され更正していく……。アカデミー外国語映画賞を受賞した『ツォツィ』は、先週紹介したコメディ『プロジェクトBB』とまったく同じストーリーである。

舞台は南アフリカ、ヨハネスブルグのスラム街。主人公の少年ツォツィ(プレスリー・チュエニヤハエ)は仲間数名と窃盗団を組み、周りからも一目置かれるいっぱしのワルだ。ある日彼は、高級住宅街の主婦から強奪したBMWの後部座席に乳児を発見する。

当初は捨て置こうかと考えたツォツィは、しかし放っておけずに自分のあばら家に連れ戻る。とはいえスラム育ちの孤独な彼に、赤ん坊の世話などできるはずもない。赤ちゃんを紙袋に入れて持ち歩き、ぼろ紙をオムツ代わりにあてる姿からは、この少年の絶望的なまでの無知無学と、育ってきた環境における両親の不在ぶりが伝わってきてあまりに痛々しい。

『プロジェクトBB』はあくまでコメディとして育児に振り回される男を描くが、このようにこちらは南アフリカにおける貧困の凄まじさを伝えるための設定として、赤ん坊が登場する。両方見ると、同じプロットでも舞台が変わればこうまで違くなるものかと思う。

赤ん坊を捨てられず、つい連れてきてしまったツォツィ。その行動からは悪党であるこの少年の中に、まともな生活に戻れる可能性がほんのわずかでも残っていることを示す。仲間の中には殺人すら屁とも思わぬ者がいたりするので、ツォツィの中に芽生えたその小さな光がさらに際立つ。

彼が途中で出会う車椅子のホームレスとのエピソードも奥が深い。この男はツォツィにとって、その気になれば簡単にすべてを奪える相手であり、南アフリカの猛烈な格差社会の中でも、数少ない自分より「下」の人間だ。

ところが、そう思い込んでいた相手がはたして彼になんと言うか。このときツォツィが受けた衝撃とその後の混乱を、どうか感じ取ってほしいと思う。そうすれば、ラストに彼がくだす決断を、さらに深みを持って味わうことが出来るだろう。

アパルトヘイト後に訪れた、さらなる差別社会。同じ黒人の中に生まれた新たな格差は問題をより複雑にし、そこに暮らす人々の絶望の深さを増している。そんな現状をわかりやすいストーリーの中に切れ味するどく表現したギャヴィン・フッド監督の手腕は、まったくもってアカデミー賞にふさわしい。

ゴールデンウィーク、本当に優れた映画作品を見たい方は、『ツォツィ』からみてみてはどうだろうか。これを見れば、きっと明日からの生きる意欲がわいてくるだろう。



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