『檸檬のころ』50点(100点満点中)
2007年3月31日、渋谷シネ・アミューズ、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開 2007年/日本/115分/配給:ゼアリズ・エンタープライズ
映像は綺麗だが、心に残るセリフがない
82年生まれの若手作家豊島ミホによる同名の青春小説は、ごく普通の高校生活を瑞々しく描写して同世代の読者の共感を得た。その映画化である本作も、青春映画の王道を堂々と歩む、直球の学園ものとなっている。
自然に囲まれたとある地方の高校。成績優秀、吹奏楽部の指揮者もつとめる学園のアイドル的存在の加代子(榮倉奈々)を、中学以来思い続けている野球部の西(石田法嗣)。しかし彼女はなぜか西には冷たい。その代わり、エースピッチャーの佐々木と急速に接近していく。一方、音楽ライターを密かに目指し、四六時中ポータブルプレイヤーを手放さない恵(谷村美月)は、生まれて初めて自分と趣味がドンピシャの辻本(林直次郎)と出会い、一気に舞い上がる。
この5人の物語を、柔らかに露出した美しい映像とピアノを中心とした繊細な音楽で描き出す。何の変化球も織り交ぜない、ど真ん中を行く高校生青春ムービーだ。
監督は長編デビューとなる若手の岩田ユキで、自身もこの手の甘酸っぱい高校生モノに惹かれ続けているという。確かに随所に相当な思い入れの強さを感じられるが、それらを隠そうともしないあたり、決して悪い気分はしない。
『檸檬のころ』のクライマックスは、恵が詞を書いた曲を辻本が演奏し、残りのものがそれを聞くという文化祭の一場面。こうした「特段変わったことが起こらない、日常を淡々と描くタイプ」の青春映画は、構成演出ともに高度なテクニックとセンスが要求されると私は考えている。すなわち、あたりはずれが大変大きいというわけだ。
そこへいくと本作は、少々力不足という印象は否めない。まず役者たちについては、演技力は低めだがいい雰囲気を持つ者ばかりで、なかなか良い面子を集めた。映像も音楽も申し分はない。ただ、全体的に芝居じみたセリフ、演技が多すぎる。
もともとこの手のジャンルは、ジジババどもが昔を懐かしんで思い切り美化した一種のファンタジーになっているケースも少なくなく、それはそれでいい映画もあるからそのこと自体は問題ない。ただし本作には、そうした恥ずかしい演出を納得させるだけの役者の自然な演技も、確立された世界観もない。ディテールに神が宿るという言葉があるが、高校生活にリアリティを感じさせる何かがまだ足りない。
「耳をすませば」よろしく、カップルが秘密の場所から街を見下ろすシーンにしても、別れのときに手を握れず「握ったら○○○になるから」と男がつぶやく場面にしても、これでは多くの観客が一斉に心の中で「ねーよ」とつぶやきたくなる。ロマンチックな場面ではるが、もう少しうまいだまし方というものがあるだろうと思う。
とはいえ、本作のメインターゲットは私よりずっと若い女性たち。おのずと感性には違いが出てくるから、この映画の中に私では気づけない多くの共感ポイントを見つけられるかもしれない。もしもそういう事があったなら、どうかお暇なときにでも知らせてほしい。