『ホリデイ』60点(100点満点中)
The Holiday 2007年3月24日より日劇3ほか全国一斉ロードショー 2006年/アメリカ/135分/配給:UIP映画

主演4人の誰かのファンの人に

いまどきラブストーリーなどというものは、その骨格はどれも同じであとはどう装飾するかだけが勝負といっても過言ではない。とくにハリウッドには、この手の映画にぴったりな世界的人気のあるスターが多数いるから、あとはいかに変わった(ロマンティックな)シチュエーションを用意するかが問題となる。

当代きっての4大人気俳優によるWカップルラブストーリー「ホリデイ」は、その題材として「ホームエクスチェンジ」を前面に持ってきた。これは、遠く離れた他人同士がインターネットを介在し、お互いの家を一定期間交換しあうという旅行形態の事だ。

ヒロインの一人アイリス(ケイト・ウィンスレット)はロンドン郊外に住む新聞記者。便利な女扱いされながらも、いまだに元カレへの未練が捨てきれない。もう一人のヒロインアマンダ(キャメロン・ディアス)は、ビバリーヒルズ在住の会社社長。イケメン彼氏の浮気が発覚して別れたばかり。二人はネット上で知り合い、ホームエクスチェンジを行うことに。

ここでいうホームエクスチェンジの面白いところは、車から何から丸ごと交換してしまうという点。しかも彼らの場合、互いの人間関係の一部まで引き受けることになる。そこから先は大方の予想通り二人とも新しいオトコと出会い、なにやら恋らしきものが始まる……というわけだ。

他人には見せられぬ恥ずかしいモノ多数な私などは、セカンドハウス同士ならいざ知らず、自宅を交換するなどという発想には到底ついていけないものがあるが、欧米では50年代から連綿と続く歴史があるという。最近ではインターネットの普及で相手を見つけやすくなったという事もあるようだ。

ためしにその手のサービスをやっている海外のウェブサイトを覗いてみると、決まってこの映画の話題で盛り上がっているあたりが笑える。それはそうだ、アイリスなどはビバリーヒルズの豪邸と高級車、さらに自分の仕事につながりそうなアマンダ人脈とやさしい彼氏(ジャック・ブラック)まで手に入れてしまうのだから。大金持ちと出会う娼婦の物語「プリティ・ウーマン」とはまた違った、妄想大爆裂なファンタジーとしてこれはたまらない。

一方アマンダのほうも、傷心を癒すには最適な田舎の素朴な家と、普段つきあっている浮気っぽいセレブリティな男どもとは違う誠実な男性(ジュード・ロウ)と出会い、人生の転機を迎えることになり万々歳。これぞまさに、人生のトレーディングカードとでもいうべき完璧な組み合わせである。

むろん、そんな一言では言い表せぬ紆余曲折がそこにはある。途中で出会う男二人には隠された陰の一面があり、それは30代同士の人間関係=恋愛には不可欠な深みをもたらしている。互いの立場を受け入れ、適切な距離感を保つことの重要さをそれとなく提示しているというわけだ。「ホリデイ」はラブコメではなくもうちょいマジメな感動恋愛映画であるから、そういう「深み」というものは大事だ。

とはいえ、各キャラクターはそれぞれの俳優をイメージして脚本が書かれたということで、まったく意外性はない。むしろキャメロンもケイトも、キャメロンとケイトにしか見えず、興ざめする一面もある。4人が騒いでいる場面など、撮影終了後の内輪な打ち上げにしか見えない。そういう意味ではこの映画、人間が描けているとは言いがたい。

それでもこの4人のスターには強いオーラがありそれだけで魅せてくれるのだが、平凡で陳腐なセリフ、先が読めすぎなストーリー、そして長い上映時間のため徐々に退屈してくる。基本的に一本道なうえ、とってつけたようなお涙頂戴話(老脚本家のエピソードなど)も余計で、どうにも洗練されていない。こうなるとむしろ、90分の軽いロマコメにした方がよかったのでは、という気すらしてくる。

ところどころ泣ける場面はないでもないが、そんなわけで全体的に底が浅い。それを、ハリウッド大作ならではの力技で強引に纏め上げた点はさすがであるが。この4人の中で一人でもお気に入りの役者がいれば、十分許せる程度の出来にはなっている。



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